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瑕 16 太古の森

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 宴席はオレたちに興味を失くし、すぐにまた別の話題で盛り上がっている。
 注意の逸れた頃を見計らって縁の下に下りた。
 隅の方に膝を抱えた士郎がうずくまっている。
「士郎」
 びく、と肩を揺らして顔を逸らす。
「士郎?」
 傍にしゃがんで赤銅色の髪を撫でる。
「急に、あんなこと、言うな」
 まだ顔が赤い。その頬を両手で包む。
 俯いて逃げようとするので、少し力をこめた。
「アーチャー、離し――」
「悪かった」
「別に、謝んなくて、いい」
「キスをしてもいいか?」
「な……、なんで、そんなこと、訊く……」
「また隠れられては困る」
「どこにいるか、すぐにわかるクセに」
 上目で見つめる士郎は、眩暈を感じるほど艶っぽい。
「そんな顔、誰にも見せるなよ」
「どんな顔だよ……」
 そっと唇を塞いで、すぐに離した唇を追って士郎が腕を回してくる。
「部屋、戻ろう?」
 吐息を混ぜてのお誘いを断ることもない。すぐに縁の下から出て、士郎の手を引き部屋に向かう。
 部屋に入るなり、士郎に抱きつかれ、口づけられる。
「士郎、待て、灯りを」
「いい、待てない」
 立ったままではどうすることもできないので、士郎を抱える。
「アーチャー……」
 頬を撫で、額や目尻に口づけてくる。
 士郎は何に昂奮したのか、珍しくがっついてくる。
「布団くらいは敷かせろ」
 いったん士郎を床に下ろすと、ぺたりと座り込んでしまう。
「灯りも点けるぞ。暗い部屋は嫌いだろう?」
 小さく頷く士郎は声も出ないようだ。
 いったいどうしたのか。
 布団を敷き、部屋の灯りを点け、士郎の前に戻ると、俯いている。
「士郎?」
 肩に触れると、小さく震えている。
「アーチャ、はや、く、っ、待て、な、い、アー、チャ、っ」
 半べそをかいて、士郎は襟を引き寄せる。
「士郎、落ち着け。いったい、どうした?」
 士郎の帯をほどきながら訊くが、首を振るだけだ。
「アーチャーが、欲しい、はやく、ほし……」
 欲しい、欲しいと士郎はねだるばかりで、要領を得ない。
 期限の切られたあの頃もオレを欲しがっていた。
 あの時は、ただセックスで焦らしたからだと思っていたが、あの頃から、オレが欲しいと言っていたのだろうか。
 確かにオレだけが欲しかったと士郎は言っていたが……。
「ぃやだ、アーチャ、はや、く、っ」
「慣らさなければ傷を作るだろう、もう少し我慢しろ」
 本当に聞き分けがない。
 自分の身体がどれだけ不便かということを、慣らさなければ辛いだけだということを、士郎はわかっているはずだ。
 なのに、早く、とせがんでくる。
 ようやく望み通り、熱い体内に侵入すると、士郎はすすり泣く。
 痛かったのかと訊くと、違う、と首を振った。
「わか……っない、気持ち、い、のに、なみ、だ、っ、出る」
 おそらく快感が強かったからだろう。
 目尻に唇を寄せて涙を掬う。
「そうか、気持ちよかったんだな」
「ん……」
 士郎が何に昂奮したのかはわからないままだが、こんなにもオレに反応してくれているとわかって、熱が上がった。

 ゆっくりと瞼が上下している。
 柔らかい髪を梳き、頬や耳に触れると心地よさそうに目を閉じる。
 眠いとは言わなかったが、事後であり、酒も入っているため、士郎は気だるそうだ。明日は間違いなく二日酔いだろう。神々に勧められる手前、できる限りで控えさせていたが、士郎は日本酒と相性が悪い。
「頭が痛いか?」
「へい……き……」
 強がらなくてもいいのだがな……。
 赤銅色の髪を撫で、額に口づける。
「急に、どうした?」
 士郎の様子が明らかにおかしいと感じたので率直に訊いた。
 ぴく、と士郎の肩が揺れる。
「…………うん」
「士郎?」
 顔を覗き込むと、まだ熱に潤んだ琥珀が見つめてくる。士郎の答えを待ちながら軽いキスを繰り返した。
「……いろんなこと、思い出して」
 なかなか言葉が出てこなかった士郎が、ぽつり、とこぼした。
「思い出した? 何をだ?」
「アーチャーと過ごしたこと、とか、いっぱい、セックスしたこと、とか、いつも、俺のこと、考えてくれてるなぁ、とか、なんか、全部……、いっつも、欲しい言葉、くれるのは、なんでかな、とか、考えてたら、俺、もしかして、アーチャーに、すごく、愛されてるのかな、とか、思って……」
「もしかしてではなく、愛しているのだが?」
「う……、だ、だからっ、そ、そゆ、こと、考えてたら、アーチャーが、縁の下に来て、優しいから、キスするのにも、確認とか、とるから……」
 胸元に顔を埋めてしまった士郎は、それきり何も言わない。
「……それで、昂奮した、と」
 仕方がないので、勝手に結論を出すと、
「ち、ちがっ、こ、昂奮とか、し、してなっ」
「十分、していただろうが……」
「うぅ、……恥ずかしい……」
 士郎は反省の極みのようだ。
「恥ずかしがることなどない。淫乱な士郎もオレは好きだ」
「うぅ、変態……」
「それは、承服しかねる……」
 憮然と言って、士郎を抱きしめた。


「神使よ……」
 その声に振り返ると、オモダルが疲れた顔で立っている。
 太陽に切り替わり、士郎が眠っている間に布団を干してしまおうと部屋を出たところで、声をかけられた。
「また何かしろ、と言うのか……」
「いや、もう、よい」
 どうしたのだろうか、こいつは?
 首を捻っていると、
「しろうの内面のことは、もうよいのだ」
 あれだけ必死だったオモダルが意気消沈している。
 いったい何があったのか。
「しろうの内面を垣間見たそうだ」
 オモダルの隣に現れたカシコネが、ぽつり、と言った。
「見えたのか?」
「うむ。しろうがそなたに不意を突かれた時に、怒濤のようにオモダルに襲いかかったようじゃ」
「襲い……」
「凄まじいものであったそうな……」
「凄まじい……もの……」
「怨讐、悔恨、怨嗟、憤慨、そんな負の感情の塊、それとともに、幸福、愛情、恋情、追慕、憧憬、などという正の感情、そして一条の光……。なんら記憶というような情景はなく、あやつの中には希望というものはなく、たった一つ、残照のように、そなたの笑う顔があった……」
 それをひと息に受け、押し潰されそうになったのだ、とカシコネは静かに話した。
「我では、どうすることもできぬな……」
 オモダルは叱られた子供のように肩を落として呟いた。
「しろうに何かが起こったとしても、我では救えぬ……。あのように複雑なものは、我に扱えぬ……」
 オモダルの能力は、神や神使が心を壊した場合、その内面にある記憶や想いから、その心を取り戻す術を探し出すことができる、というようなものらしい。
 そして、その術が士郎には全く使えない、と言って落ち込んでいる。
 要するに、士郎の内面は複雑すぎるのだ。
 神さえ匙を投げるほどに入り組んでいる。
 確かに士郎の心は、絡み尽した糸のようだからな。
(まあ、オレも同じようなものだが……)
 こんなことに納得するのもどうかと思うが仕方がない。エミヤシロウはそういう生き物だ。
「そんなに気を落とすな。士郎はオレがなんとかする」
「神使?」
「根本を同じにしたオレたちだ。どうにかするのは当たり前の話だろう?」
作品名:瑕 16 太古の森 作家名:さやけ