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瑕 16 太古の森

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 オモダルは疲れた笑みで頷く。
「……しろうのことは、そなたに任せた方がよいな」
 やはり神は素直だ。そして一心に自らの能力を発揮しようとする。
「心配するな、士郎はそれほどやわではない」
「そうじゃな!」
 オモダルは納得したのか、いつもの悪戯っ子のような笑顔を見せた。


 オモダル・カシコネの二神が去っていき、布団を干していると、士郎が目を擦りながら部屋から出てきた。
「起きたか」
「ん……」
 こくん、と頷いて少しふらつきながら歩み寄ってくる。
 ぎゅ、と抱きついてきた。
「士郎?」
 寝癖の残る赤銅色の髪を撫でると、胸元に顔を擦りつけてくる。
「どうした?」
「……いないから」
「ああ、布団を干しておこうと思ってな。悪かった。すぐに戻るつもりだったのだが」
「ん。平気、ここにアーチャーがいるから」
 まだ寝惚けているのだろうか。ずいぶんと可愛い口をきく。
 柔らかい髪を撫で、こめかみに口づける。
(絡んだ糸は、少しずつだが、ほどけてきていると感じるのだがな……)
 この磐座で士郎は過去を克服しつつある。
 急ぐことはない。
 期限などないこの磐座で、士郎が心に負った傷を少しずつでも癒していけば、絡みつくした糸もいずれすべてほどけていくだろう。
「士郎、ゆっくりでいいからな」
「ん? 何が?」
 見上げてくる琥珀に笑みを返す。
「ああ、すべてが、な」
 首を傾げる士郎に口づける。
 焦ることなどない。士郎も、オレも、何もかも。



***

「三日ほどだろ?」
「ああ」
 アーチャーは沈んでる。
「なら、すぐじゃないか」
「……ああ」
 反応も暗い。
「仕方ないだろ、神使なんだから」
「いつもは、ナキが済ませていた。なぜ、今回はオレなのか……」
「いっぱしの神使になったってことだろ?」
 喜べ、と俺は肩に手を置くが、アーチャーはその手に一度目を向けて、俯いたまま、上目で俺を見る。
「士郎は……」
「ん?」
「………………寂しくないのか」
 だいぶ沈黙してから、そんなことを、ぼそり、とこぼす……。
(あーもー、カワイイなぁ……)
 白銀の髪を撫でてやって、その頭を肩に預けさせる。
「寂しいよ」
「そんなふうに見えない」
「我慢してんだって」
「本当に?」
「ほんとだって」
 嘘じゃない。
 ほんとは三日も冗談じゃない。
 だけど、アーチャーはスサノオの神使だ。やらなきゃならないことは、やらなければ。
「ここが、俺たちの居場所だろ? なら、守ってくれよな」
 アーチャーが神使としての務めを果たさなきゃ、俺たちはここにいられないんだから。
「ああ。わかっている」
 抱きしめる腕の熱さも、強さも離れがたいものだけど、そろそろ時間だ。昨夜もたくさん抱き合ったし、たったの三日、我慢すればいい。
「待ってるよ」
 軽く口づけて、額を合わせる。互いに笑った。
「すぐに戻る」
 アーチャーの常套句を聞いて頷いた。

 年に一度の神使の集いがあるのだそうだ。
 今まではナキがスサノオの神使として出席してたんだけど、今回はアーチャーが出席することになった。ナキは少し前から淡路島へ行ってる。イザナギのところで、何やらお手伝いがあるとかで。まあ、里帰りみたいなもんだな。
 アーチャーのことだから、そんな集い、たって、難なくこなせるだろうけど、何しろ宴が主らしいから、色々とストレスを溜めこんで帰ってくるだろう。
 俺もアーチャーも酒の席は嫌いじゃない。だけど、大勢の宴というか、宴会っていうのは苦手だ。どうしても、世話を焼いてしまう役回りになるから疲れちまう。
「ま、それがエミヤシロウなんだろうけど……」
 アーチャーを見送って、縁側でぼんやりと空を見上げる。
「三日かぁ……、なげー……」
 アーチャーには強がりを見せた。
 バレてるとは思うけど、寂しいとはあまり態度で表さないようにした。行くのをやめるって言いかねないからだ。
 スサノオもたいした行事じゃないって認識だから、本当にやめかねない。だけど、神使の話によると、意外と重要な集まりなんだそうだ。内容が宴会だとしても、だ。
 神々との横のパイプラインとも言える、神使同士の繋がりは無いよりあった方がいい。
 何か不測の事態に陥った時に、なんらかの対処が取れる。
 邪鬼の時みたいに、ここが孤立無援になってしまうことだってあるかもしれない。あの時は、外部からの干渉がなければ、本当にやばかったんだから……。
 それに、アマテラスの筆頭神使からはじまり、八百万の神々の神使が一人ずつ出席するんだから、三貴子のうちのスサノオの神使の席が空席ってのは、ちょっと問題があると思う。
 スサノオの神使がナキだけなら仕方ないという話になるだろう。だけど、噂にもなってるスサノオの神使が出席しないわけにはいかない。
 今、神域界で、このスサノオの磐座は、注目の的なんだ。
 スサノオが元英霊を神使にした、なんて、すでに知れ渡ってるし、俺が舞ったスセリ姫の神楽のこともあるし、とにかく、何かと話題を振りまいてるスサノオの神使が出席しないわけにはいかない。
「はぁ……」
 色々理屈をこねてみても、ため息ばかりはどうしようもない。
「ぼんやりしてても仕方ないか」
 気持ちを切り替えるために声に出して、布団を干し、部屋の掃除をして、庭で水やり……、いつもやってることをこなそうと動き出した。
「暇か?」
 水やりをしてると、声をかけられる。
「カグツチ?」
 荒野の向こうの岩山にいるカグツチが縁側に立っている。
 いつの間に来たんだ? 全然気づかなかった。
 イザナギといい、カグツチといい、オモダル・カシコネも、突然現れるのは、二代までの神様の特技みたいだ。
「まあ、暇だけど?」
「遊びに行かぬか?」
「アーチャーは、今、神使の集いってやつに――」
「知っている。衛宮士郎、暇だろう?」
 決めつけるな、暇だけど。
「いいところに連れていってやる」
「ガキじゃねーんだけど……」
 とは言うものの、暇だし、じっとしてても寂しいだけだ。
「岩山の向こうだ」
 カグツチは俺の言うことを聞いてないのか、それとも、俺の本心をわかってるのか、勝手に話を進めてる。
「んー、じゃあ、スサノオに言ってから」
「よし」
 庭に、とん、と下りて俺の腕を掴んだカグツチは、本殿のスサノオの前に瞬間移動だ。
「素戔嗚、衛宮士郎を借りるぞ」
「な、軻遇突智?」
 面食らったスサノオにそれだけ言うと、再びカグツチは瞬間移動だ。
「おい、ちょっと!」
 俺の不平は、すでに岩山に来てからだった。
「なんだ?」
「スサノオに、あれだけじゃ、伝わんないだろ!」
「問題ない。素戔嗚はこの磐座のすべてだ。お前の居場所がわからないはずがない」
「いや、そうだろうけどさ……」
「それに、お前が丸腰ではないことを知っている。少々の自由くらい、どうということはない」
 カグツチの強引な勧めと行動に、俺は諦めの境地だ。まあ、少し助かった、とも思わなくはないけども……。
(じゃあ、まー、この際、楽しむとするか)
 呆れながらだったけど、気持ちを切り替えた。
「そんで、どこに行くって?」
「いいところだ」
作品名:瑕 16 太古の森 作家名:さやけ