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瑕 16 太古の森

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 だけど、どうしようもない。
 不安で、不安で、たまらない。
 だったら……。
「アーチャー、今日さ、筑前煮食べたい」
 神様たちが、何を言うておる、とざわつく。けど、少しだけ目を瞠ったアーチャーは、
「ああ。では、腕によりをかけよう」
 そう言って俺の頭を引き寄せ、額を当ててきた。
 不安を拭いたくて、俺は約束をねだった。アーチャーはわかってくれたみたいだ。
「すぐに戻る」
 アーチャーの常套句。
 用事を済ませる時も、食事を作りにいく時も、こうやって、戦いにいく時も同じ。
「うん、待ってるよ」
 俺は、頷くだけだ。アーチャーを待つだけ。
 アーチャーが戻ると言う。なら、俺はその場所になる。
 荒野へと振り返って歩き出したアーチャーは概念武装を纏った。赤い外套が翻る。
「アーチャー……」
 瞬時にその姿は点となった。
「衛宮士郎、大事ない。あれは、守ることには最強だと、そなたが言うたのであろう」
「うん。そうだよ」
 スサノオに答えて頷く。
 不安は拭えない。アーチャーを信じてないんじゃないけど、俺はどうしようもなく不安だ。
 凄まじい数の剣が不浄の巨体を攻撃している。その体が大きいからか、なかなか効き目がないみたいだ。邪鬼の時みたいに目に見える効果はなくて、今のところ、足止め程度にしかなってない。
「スサノオ、不浄を叩くには、何が必要?」
「そうじゃな……」
 少し考えてスサノオは、清水か聖火が最もよい、と言った。
「清水か聖火……」
「衛宮士郎、何を考えておる? そなたは不浄に近づいてはならぬぞ」
「あ、いや……」
 アーチャーが不浄の赤黒い生き物を徐々に退けはじめているのはわかってる。
 だけど、どうにも、岩山を回りこんで、その向こうへ行きそうな予感がする。
 岩山の向こうには森がある。
 あの森が不浄に堕ちてしまえば、きっと切り捨てないといけなくなる。永い時をかけて育ったあの森が再び今と同じになるには、また同じくらい永い時が必要なはずだ。
 いや、そんなことよりも、俺はあの森を失いたくない。
「聖火でも、いいんだよな?」
 心は決まった。スサノオを振り向くことなく確認する。
「かまわぬが、まさか……」
「弓」
 短く言って左腕を突き出す。風の矢をつがえ、弦を引く。
「衛宮士郎、何を――」
「伝えてくれ」
 スサノオには答えず、風の神様に伝言を頼んだ。岩山へ向けて、風の矢が飛んでいく。
「そなた、何を考えておる! ここに居れと言うておるだろう!」
「不浄が森に向かったら厄介だろ?」
「じゃが……」
「来てやったぞ」
 スサノオが言い澱んだところに、カグツチが現れた。
「カグツチ、不浄を叩く、協力してくれ」
「ほう。アレを叩く? まあ、そうだな、あのようにふてぶてしく居られても腹立たしい」
「だろ?」
 カグツチと顔を見合わせて、口端を上げる。
「衛宮士郎!」
 スサノオに腕を掴まれて振り返った。
「ならぬ。そなたはここで待て」
 いつになく強い口調と眼差しだ。
「大丈夫だって。カグツチがいるし、それに、アーチャーは俺を守ることに関しては天下一品だから」
「じゃが……」
「ごめん、スサノオ。わかってるけど、あの森を、俺は失いたくない」
 真っ直ぐに見据えると、スサノオは腕を放してくれた。
「まったく、そなたは、強情じゃからの!」
 呆れた顔と声で言って、ぽん、と頭に手を載せられる。
「そなたに万が一のことがあらば、アレがどうなるかわかっておるであろう。くれぐれも、我が身一つのことと思うでないぞ」
 しっかりと俺に釘を刺して、スサノオは荒く俺の頭を撫でた。
「わかった」
 頷いて笑顔を見せる。
 荒野に向き直り、カグツチを見上げた。
「近くまで行けるか?」
「行けるが、お前は大丈夫なのか?」
「一計がある」
 言うと、にやり、とカグツチも口角を上げた。
「そういうことなら」
 俺の腕を掴んで、瞬間移動だ。
 岩山の端に着いて、不浄の大きさに少し驚いた。
「デカいな」
「ああ。ここまで育ったものは久方ぶりだ」
「そうなのか?」
「不浄はな、はじめは霧状、次第に靄となり、次いで小さな塊、その後、生き物の形になる。まあ、塊のまま大きくなって、大きな生き物の形になるものもいる。こいつは、それだろう」
 カグツチは静かに言う。
「それで、一計とは?」
 不浄に目を奪われていた俺を、カグツチは現実に引き戻した。
「あ、うん、焼き払う」
「は? 焼き?」
 カグツチは目を丸くした。
「お、おれの火で、あの大きさは無理だ」
「だから、俺が手を加えるって」
 首を捻るカグツチに、肩を竦める。
「鈍いなぁ。この前、やっただろ? あれを最大級の力でさ」
 ぽかん、としていたカグツチが思い出したように、頷く。
「あれを、か……」
 少し考えて、カグツチは犬歯を見せて笑う。
「衛宮士郎、お前は、本当に奇抜なことを思いつく」
「さっさとやろう。森に入られたらできない」
「ああ、確かにな」
 カグツチも、そうなると厄介だと思ってたんだろう。不浄ごと森を失うことになるかもしれないと、漠然と考えてたのかもしれない。
 とにかく、このことをアーチャーに伝えて、上手く避けてもらわないと、アーチャーごと丸焼けなんて、目も当てられない。
「アーチャーに伝えないとな」
「神使にか? おれが伝えよう。お前はやりやすい場所を見繕え」
「了解」
 カグツチはすぐに消え、俺は岩山を見渡す。
 あの巨体を劫火で包んでやる。
 そのためには広い場所が必要だ。今、どちらかというと森の方へと向かいつつある不浄を荒野側へおびき出さなきゃならない。
「不浄の好物って、なんだ?」
 イマイチそういう知識がないから首を捻る。
 以前、不浄の靄に取り込まれそうになった。
 神でも神使でも取り込みたがるんだろうか?
(いや、人……か?)
 アーチャーには、あの靄は見向きもしなかった。俺には人型になって、襲いかかってきたのに……。
「そういうことなら、俺がエサになりゃいいって話だ」
 岩山を下りながら、東風に頼む。
「カグツチに伝えてくれ」
 す、と一迅の風が左腕から浮き上がったと思ったら、一直線に不浄の方へと飛んでいく。
「ごめんな、神様だから近寄りたくはないと思うけど」
 風を見送って、岩山を駆け下り、不浄の目のつくところへ走る。
「よっし、ここなら……」
 荒野に下り立ち、不浄を振り返った。弓を作って、風の矢をつがえる。
「ここまで、おーいでっ!」
 赤黒い背中の部分に風の矢が当たり、衝撃でその辺りの肉らしきものが爆ぜた。致命傷にもなってないけど、こちらに顔を向けた不浄は、巨躯を翻しはじめた。
「おーおー、単純だなー」
 完全にこちらに顔を向けた巨大トカゲの不浄は、目のような赤く光る部分を持っている。顔の両端に二つあれば、目とも言えるが、真ん中に一つなら、目とも呼べない。ただの赤く光る器官というだけだ。
「でも、目っぽいな」
 そこで認識してるとわかる。赤く光るそれは、半球形ではなく、円錐形だ。その細くなった天辺がグリグリと動く。そこで何かを感知してるのは明らかだ。
作品名:瑕 16 太古の森 作家名:さやけ