ヘレナ冒険録
[伝説の坑道] 『エルフ族のものと思われる地下城に、ドワーフの技術で掘られた坑道。明らかに対立関係だったはずの異種族が協力したと思われる痕跡がある。これらが示す真実とは? さらに調査を進めてみる』
「……エルフ語の手紙だわ。誰にあてたのかな、書きかけ」
ヘレナが今読んでいる手紙。吾輩としては中身よりも、朽ちぬ紙の性質が気になるところだ。
「読めるのか?」
「辞書がないから、少しだけど……。『我が愛する夫ブランと、……奇なる友……へ……』ダメ、複雑な文法で読めない。あとは……『別れ』……『孤独』……『故郷』……?」
「それって……オホン、そんな単語が並んでいるとは、まるで遺書のようではないか」
このカーミル、何か隠しているとは思うのだが、どうやら嘘がつけないタイプだな。節々にボロが出ているぞ。
「そうね。字はきれいだけど、震えてる。病気か何か……だったのかも。古すぎて、読みづらいな。……そうだ! 【モンタナ冒険録】の時代に彼が読み解いた結果が、多分このあたりのページに……」
筆跡から書いた時の人物の状況をそこまで察するとは。ヘレナよ、たいしたものだ。情報が断片しかない時は許される限り、自身の想像力で埋めるのだ。
「モンタナの語ったとおり、ここではエルフとドワーフが共存していた。秘密はおそらく、この土地。厳しい環境下では、異文化交流が生存の鍵だった」
そう。プライドがあろうが敵対していようが、どんな種族でも一人では生きられない。互いに協力し、知恵を出し合ってこそ、新しい道が拓けるのだ。
「へえー……じゃなくて、なるほどな。君の所見は実に興味深い。両者の共存の知恵は、現代人にも活かせるだろうか?」
「……どうかな。個人的な友好関係って感じだったみたいだけど……。あれ、この壁……ちょっと、手伝って!」
おっと隠し扉……ではないな。どうやら急ごしらえの柱だな。壁で封じるわけでもなく、扉にするわけでもない。女性二人で動かせるくらいの柱。果たして……。
「まだ先がある! 傭兵の仕事、延長していい?」
「……そう言うと思っていた」
古来より、閉ざされた道の先には、真実が待っていると相場が決まっている。カーミルも乗り気だし、さらに先に進もう。
「ここは……地下坑道と、掘進の手法が同じだわ」
「誰かが作ったってこと?」
「ん? 話し方……」
「あああ、忘れてくれ。そ、その、地下坑道を掘ったのは城にいたドワーフだったな」
本当にカーミルは嘘が下手なようだ。目が泳ぎまくっているぞ。
「名前はラグルス。モンタナの解読によればね。彼の手によるものだとしたら……もしかして、この先に隠されているのは……?」
果たして、出てくるのは宝か蛇か。
「モンタナが探しても発見できなかった、新しい証拠だわ!!」
脇目も振らず、走りだしたか。やっぱりヘレナは財宝よりも魔物よりも、好奇心が勝っているのだな。それで良い。
「この洞窟……瘴気が薄くなってる……?」
カーミル、君は気づいたようだな。だが、ヘレナを一人きりにしないようにしてくれたまえ。早く後を追ってくれ。