ヘレナ冒険録
[過去からのメッセージ] 『私はついにやった! モンタナも探し当てられなかった、異種族交流のシンボルを発見した。早速解読してみようと思う。果たして、犬猿の仲だったエルフとドワーフを結び付けたものとは?』
「うそ……本当に、見つけちゃった……!」
やったな、ヘレナよ。これは新発見だ。
「この樹……瘴気を吸収してるじゃない!」
「ん?」
「あっ」
カーミルの気取ったしゃべり方も、どうやらここまでのようだな。
「やっぱり、無理してしゃべってたんじゃない! なんで格好つけるのよ!」
「そ、それは、あの! (ゾルダードの任務とは、さすがに言えないよね……)」
カーミルよ、吾輩には聞こえてしまったぞ。なるほど、帝国……ゾルダードの者だったのか。それにしては、詰めが甘い気もするが。新入り……といったところか。帝国も相当人手不足らしいな。
「ゴメン。傭兵として、威厳がなくて信頼されないかと思って……」
「そんなこと!? カーミルがいなかったら、私はここに来れなかった。あなたを信頼する理由なんて、それで十分」
確かに。カーミルの正体がなんであれ、ヘレナがここまで無事にたどり着けたのは、君の護衛あっての物種だ。感謝するぞ。
「……ありがと。ねえ、せっかくの発見なんだから、調べてみたら?」
「ええっと…………そうね、これは瘴気を吸収する【浄化の樹】。」
珍しいな。毒気の多い瘴気を好んで栄養分へと転化させる植物か。よく育っている。
「あれ? あっちの文字は……」
おっと、石碑……か。これを刻んだ主が手紙ではなく、石碑を選んだということは、この樹が結果を出す頃には、すでにもう……。
「エルフ語なのかな。素人目にはへたくそに見えるけど」
「読んでみるね。『シンアイ ナル トモヘ ラグルス ヨリ』。ラグルスからのメッセージだわ!! 大発見よ!!」
「早く、続きを読んで!」
「ええっと……」
ふふ、カーミルもどうやら新しい発見の興奮を覚えたらしいな。そう、未知の発見こそ、冒険家の仕事であり、喜びなのだ。
「ラグルスは、ブランに報告した。この樹が実を結んで……瘴気を吸収しているって……。そのおかげで、人も少しずつ住むようになったって、日記みたいに書いてる」
「エルフ族は死ぬと風になるから? ……その風に読んでもらうため?」
「そう信じたんだと思う」
やはりそうか。このラグルスという名のドワーフ族は、ブランという名のエルフ族へ何か返礼をするためにこの【浄化の樹】を植えたのだろう。ドワーフ族というのは義理堅い種族。自分が受けた恩に対しては、たとえ命を懸けてでも返そうとする。しかし悲しいかな、その返礼が実を結ぶ頃には、すでに受け取り手はいなくなってしまったのか。
――!? なんだ、この揺れは? 地震ではないな。何か巨大なものが近づいている!
「なにっ!? まさか、昔のモンスター!?」
「今更、引き下がれない! この成果は絶対に持ち帰る! 急いで脱出しよう!」
ヘレナよ。生きて帰るのだ。これが最初の成果なのだからな。なに、大丈夫。カーミルもついているし、吾輩もついているぞ!