ヘレナ冒険録
[ドワーフの鍛冶場] 『ドワーフの鍛冶場の中を探検。私は人間の鍛冶場を見たことはないが、それでもここのすごさが伝わってくる。鍛冶場というより、まるで一つの国家のようにも思える。ドワーフたちは魔物がいても平気で鍛冶仕事をする、タフな種族だ』
「あいたたた……」
ふう……。ようやくモンスター共をまいたようだな。
「もうっ! なんで魔物がいるのに夢中で仕事なんかできるの!」
まったくその通りだ。そこまで凶暴なやつこそいないものの、人間ならとてもじゃないがこんな環境では鍛冶仕事などできないだろう。
「いや……違った。【モンタナ冒険録】には……」
おっと。ヘレナがリュックをあさり始めたな。頻繁にリュックから本を出したりしまったりする割には、一番下に吾輩が入っていることに気づかないものだな。
「『ドワーフが魔物と共存することは彼らの文化を守ることになった』……って書いてあるわ。確かに、ドワーフの鍛冶は見事ね。人間にはとても真似できないわ」
モンスター共が巣くっている環境のおかげで、人間の介入が抑えられたわけである。異文化交流はもちろん素晴らしいことかもしれないが、純粋な文化が残っていることも、いやむしろ、そちらの方が奇跡というべきだろう。
「よし、私もへこたれない! 必ず、この冒険録の続きがここにあるはず!」
その調子だ、ヘレナよ。君の危機察知能力があれば、吾輩の出番はなさそうだ。さらに奥へと進もうではないか。
「あったーっ! 確かにモンタナの筆跡だわ!」
早いな、見つけるの。たいしたものだ。それにしてもこんなところに本が無造作に投げてあるとは……。よくもまあ、無事に残っていたものだ。
「なになに……『暗黒大陸ゴロノアと旧き種族について』……『古代、この世界には多くの知恵ある種族がいた。人間とドワーフだけではない』『暗黒大陸といわれるゴロノアでひっそりと生き延びた者』…………あれっ? ……焦げ目!? 続きが読めない!」
ああ、焦げてたわけだ。そりゃそうだ。こんな地熱を利用した鍛冶場にあって、無事で済むわけがないな。
「決まり。……暗黒大陸、冒険ね」
決断が早いのは、ヘレナの長所の一つでもある。こうと決めたらまっすぐ一直線。手がかりを得たら、まずは自分の足で行動する。それが冒険家たる者の資質なのだ。
「幸い、地図は残ってるし。冒険家だったら、実際に行くしかないでしょ!」
たいていの地図はちょっとやそっとじゃ破損しないように加工してあるものだ。地図は冒険家の生命線だからな。それにしても、ドワーフたちが口々に言っていた、初代シドという名。どこかで聞いたことがあるような気もするが……。まあ、今はそんなことどうでもいい。さあヘレナよ。次の大陸へと向かおうではないか。