ヘレナ冒険録
[オルデリオンの海賊] 『どうやら一般の船ではゴロノア行きは不可能のようだ。蛇の道は蛇。暗黒と名の付くからには、それなりの方法を考えないといけない。まずはオルデリオンへ。』
「さてと、オルデリオンに着いたのはいいけど……やっぱりあの人たちに頼らないといけないのかしらね……」
水都オルデリオンに着いてから、どうもヘレナの足取りは重いようだ。ま、それもそのはずか。正規のルートでのゴロノア行きの船はどこの町も出してはいない。情報収集の結果得た情報が裏ルート。つまり――。
「海賊、かぁ……」
そういうことらしい。
「そもそも、海賊って、人の物奪うのが仕事でしょ? 冒険家を乗せていくなんて、とてもじゃないけど……」
珍しく弱気になっているじゃないか、ヘレナよ。
「ううん! ロマンのためよ! 海賊上等! そうだ、わざわざ交渉なんてしなければいいのよ。向こうは略奪者、つまり犯罪者。お願いすることなんてないわ」
おっと、なんだか今まで見たことのない悪い顔つきになってきたな。
「ふっ……。密航、これね! なんだか冒険らしくなってきたじゃない」
まぁ、これぐらいなら大丈夫だろう。冒険ロマンのためには手段を選ばず。危険の中に飛び込むこともまた必要ではあるが。
「さてと、どれが海賊船かな……」
この水都オルデリオンには海賊船が停泊できるらしい。というより、一般には海賊船と認知されていないと言った方がいいだろう。いかにもというような海賊旗はもちろん掲げていないし、なんといっても不思議なのは、この町を襲うということがないということだ。きな臭いというか、何か裏の事情がありそうだ。
「!! きっとあれだわ。いかにも海賊っぽい兜かぶってるし、運び入れている大量の樽はきっとお酒ね! 海賊船にお酒はつきもの……そうだわ!」
なるほど、空の樽の中に忍び込んで……って、ヘレナよ。その空の樽はいったいどこから持ってきたのだ?
「おかしらー! これで最後ですぜ」
「ご苦労、お前たち。さあ、出航するよ!」
どうやらこの海賊船の頭領は女性らしいな。あんなあらくれ共をまとめるとは、よっぽど実力があるのだろう。それに、この水都と折り合いがついているのとも関係していそうだな。
「密航……は……海洋ロマン……って思ったけど……。景色の見えない真っ暗な揺れ……。うぷ、ダメ……もう我慢できない」
だろうと思ったが。元々ヘレナはそこまで船旅慣れしているわけでもないしな。だが、そんなふらふら表に出てしまうと……。
「おい! そこの小娘! 何者だ!?」
とまあ、こうなるのは明白ではある。
「私は……冒険家……。うぷ、その前に……」
おっと、船べりへと一直線。そのまま……。どうか海賊たちよ、見ないでやってくれ。うら若い娘の逆流の瞬間を。
「はあーすっきりしたわ。私は冒険家ヘレナ。ばれたからには仕方ないわね。故あって、ゴロノアまで運んでいって欲しいの。今この船は北上してるんでしょ? ディルナドに行くにしろ、ファルムに行くにしろ、ゴロノア付近は通るよね!」
怖いもの知らずというか、素直というか。ま、それがヘレナの良いところでもあるのだが、この状況で果たしてその願いが通るものかどうか……。
「はぁ!? 何寝ぼけたことぬかしやがるんだ、この小娘は! この船はなぁ、海賊船なんだよ、海賊船! はいそうですか、ってわけにゃいかねぇんだよ!」
ほらきた。海賊たちがそうやすやすと運んでくれるわけがない。
「お願い! どうしても……ロマンのために、ゴロノアに行かなきゃいけないの!」
「そんなことは俺らの知ったこっちゃない。今すぐ海に放り投げて――」
「待ちな!」
おっと、さっきの女頭領のお出ましか。さあ、このピンチ。吉と出るか、凶と出るか。