ヘレナ冒険録
[護衛剣士カーミル] 『メルセデスと約束を交わし、いよいよ瘴気渦巻く暗黒大陸ゴロノアに到着。船着き場もなく、海岸も大型船が近づけないので、ボートを借りてここからはまた一人。不安はあるが、ロマンのために私は突き進む』
「はあ……海賊船にお世話になって……あとは手漕ぎボート。だけど、この瘴気。間違いなく、ここはゴロノアね!」
ヘレナよ。サバイバル術を身につけておいて良かったな。まさか、ボートを漕ぐはめになるとはな。人生何がどこで役立つかわからないものである。
「ええと……記録には……『その城は地下に築かれた。とある……の手によって』『巨大な地下坑道…………を抜けると、地上に通ずる』。大事なところ、穴だらけ……ヒントになるのは……【地下坑道】かな。確かにこんな瘴気、長くもたない。何かあるとしたら、地下だわ。ええっと……『私の後を追う者は注意せよ。坑道は魔物の巣窟となっていた』」
吾輩はこんな瘴気、なんともないがヘレナよ。早く地下坑道に行くべきだな。……が、ヘレナにとっては瘴気よりも魔物の方が問題、か。
「うう、ロマンのためなら仕方ない! なんとかなるはずよ!」
そうだ。地下坑道ならば得意の隠れる戦法も活きてくるしな。もちろん、逃げ場がなくなるリスクもあるが、そんなことは言ってはいられない。さあ、地下坑道へと向かおうではないか。
「はぁ……動く石像の魔物……あれも古代の遺物なのかな。」
ふう……。行ったか。石系の魔物は物理攻撃が効きづらい。ここはやり過ごすに限る。
「上等! あれも冒険ロマン! ……と言いたいとこだけど。さすがに護衛くらい、雇えばよかったかな」
おっと! 油断していると新たな魔物に見つかるぞ!
「誰!? 人間なの!?」
「そ、そっちこそ!」
なんと、魔物ではなく人間だったとは。それも、女性が一人で……。ピンク色の髪の毛に踊り子のような格好をしてはいるが、剣を構えてきたところを見ると、剣士のようだな。
「土地の者じゃないわね。本を持ってるってことは、学者か何か……」
「冒険家。名前はヘレナよ」
「今どき、冒険家? 絶滅したとばかり……」
「あなたこそ、冒険のロマンもわからないくせにこんなところに何の用?」
「私はゾルダ……」
何かを言いかけたな。そもそもこんなところへ剣士が何の用事で来ている、というのだろう。
「ダメ、ダメ。極秘任務なんだから。旅の傭兵らしく……オホン!」
極秘任務とか聞こえたが、まあスルーしておこう。
「私の名はカーミル。通りすがりの旅の傭兵だ。ここへは腕試しに来たのだが……キミのように丸腰の者には、いささか危険ではないのかね」
「……何か、突然話し方、変わってない?」
「そのようなことはない! わわ、私は元よりこの性格だ!」
いや、あきらかに変わったぞ。
「それより、危ないのだから早く、ここを脱出……」
「まあ、いいわ。傭兵ならちょうどよかった! 護衛が欲しかったところなのよ!」
「はっ?」
「報酬はあとで払うわ! 奥の地下城へ行きたいの。ついてきて!」
「ち、ちょっと待って! じゃなくて、待ちたまえ! 勝手に決めるんじゃないっ!!」
ま、いささか頼りなさそうではあるが、ヘレナ一人で探索を続けるよりはいくらかマシだろう。これで吾輩の出番も、まだまだお預けになりそうだ。