ヘレナ冒険録
[冒険する理由] 『魔物が巣食う地下坑道で出会った、剣士カーミル。彼女の言動には不審な点がいくつかあるが、悪い人間ではなさそうだ。剣の腕もなかなかだし何より、向上心がとても強く、今の私にはうってつけの護衛だ』
「きっついな。護衛がいても道は険しいのね」
「さっきも……オホン。先程も聞いたが、なぜキミは冒険家などと名乗っているのだ。この飛空艇の時代に、己の足で伝説を追いかけるとは……時代遅れだし、何より危険だ」
メルセデスの時もそうだったが、どうやらこの時代に冒険家は相当カビの生えた存在らしい。自分の足で歩いてこそ、見えるものがあるのはいつの時代でも不変のものだと吾輩は思うのだがな。
「モンタナ。伝説の冒険家に出会ったから」
「おとぎ話の登場人物だろう」
「実在したのよ! 彼の冒険記録は、私のおじいちゃんの宝物! 小さいころ、身体が弱くて、引っ込み思案だった私はいつも本ばかり読んでいた。そうしたら、出会ったの。人生を変えてくれた、この【モンタナ冒険録】!」
そうだ。この女剣士に見せてやるのだ。君がこうして外の世界に出るようになったきっかけを。
「古い手書きの日誌……! じゃあ、本当に……」
「そう! おとぎ話は史実だったの! けど、誰にも信じてもらえなくて。それで、自分で冒険ロマンを追いかけることにしたのよ」
「なるほど……。身体が弱くとも、意思は強いというわけか」
そう。ヘレナの意思は強く、意志は固い。信じることができる者のみが、新しい発見の扉を開くことができるのだ。
「私が見つけた記録によればこの先にはお城があるわ」
「地下に城だと? 夢物語だな」
「本当かどうかはいまにわかるわ! ほら、ついてきて!」
確かに、地下城などありえない。ただし、それは人間の観点からすればの話である。地上を統べていると思っている種族から、太陽を奪うことなどできないのだからな。
「やれやれ…………まあ、いっか。元々ここを調べる任務だし。冒険家っていうくらいなら、情報も探り当ててくれるかも。えーっと、しゃべりかた……オホン! うむ、このような感じだな」
ヘレナもマイペースではあるが、このカーミルもだいぶのんびりしているな。こんな調子でよく今までやれてこれたものだ。いや、これも先入観かもしれない。吾輩には計り知れない力をきっと持っているのだ……と思いたい。