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同調率99%の少女(11) - 鎮守府Aの物語

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「それじゃーつぎはさっちゃんかなぁ。」
 今まで蚊帳の外で話題に入れなかった(というよりも流留の話題だったため入る必要がなかった)幸は、那美恵から急に振られて焦った。すでに神通の制服のインナーウェアを着ていたが、下半身は学校の制服のスカートを脱いでまだ下着という状態である。
「え? え? ……私?」
「そーそー。さっちゃんのことまだなーんも知らないし。わこちゃんからそれとなく聞いてはいるけど、それも全てじゃないだろーからね。本人の口から、きちんと聞きたいでーす。」
「そうですねぇ。さっちゃんのこと色々知りたいな。例えば……どうして艦娘になろうって思ったの? あたしはイジメがきっかけで逃げてきた口だけど。」

 那美恵と流留から畳かけられるように急かされた幸は眉を下げて困惑の表情を浮かべる。二人は期待の眼差しで幸を見つめる。どうしようか迷っていると、那美恵が自身のことを言い始めた。
「まー、さっちゃんだけに言わせるのもなんだから、あたしがどうだったか教えてあげるね。あたしはね、学校のこと、生徒会のことばかりの毎日で飽き飽きしてたんだ。夢だったアイドルになることも毎日の忙しさでぜーんぜん近づけなかったし。どうにかしたいなーって思ってた時に、たまたま雑誌で鎮守府Aの艦娘の募集広告を見つけたの。そしたら、川内と那珂の両方に受かっちゃった。それで、なんか惹かれた那珂になって、今現在も邁進中です!」
 非常に軽い口調で自身の身のうちを明かす那美恵。そして最後の締めの言葉も軽い口調、テンションで発した。

「だから、高尚なこと考えて艦娘になったわけじゃないんだぁ。どお?普通でしょ?てへ!?」
 那美恵の告白を聞いた幸は最後の問いかけには愛想笑いをして返答を濁す。那美恵が艦娘になった経緯を噛みしめるように脳に刻み込む。それなら自分の目的はきっと恥ずかしいものじゃない、この人たちならきっと笑わない、粗相をしてしまった自分のことを一切茶化さずに片付けを手伝ってくれた那美恵たちを、信じて打ち明けても良いかなと幸はそう思い、口を開いた。

「わ、私は……今の自分を、変えたくて……」
 幸ははっきり言ったつもりだったが、自信の無さと不安げな感情が表れてしまい言葉の最後にいくにつれて声がくぐもってしまう。当然最後の方の言葉は那美恵も流留も聞き取ることはできない。
 ただ、二人とも急かすことはせず、期待に満ちた眼差しを向けるのみだ。ひとまず口をつぐんでしまったが、仮にも同じ艦娘という存在になるために集まった者同士。幸は勇気を出して再び口を開けて続けた。
「今までの自分が嫌で嫌で……変えたいと思ったんです。」
 やっとはっきり伝えられた幸の言葉は、少し離れた場所で座っている那美恵にも確かに聞こえた。幸の言葉を聞いて那美恵は具体的な事を聞き出そうと優しく聞き返した。

「自分を変えたくてかぁ。うんうん。なんかわかるよその気持ち。で、どうしてそれが艦娘だったの? 何かきっかけがあるのかな?」
「えぇと。……はい。私は……これといって趣味もないし、運動も得意なわけじゃなくて、得意といえば学校の勉強くらいで。普段の生活で自分を変えられるようなものが……今の生活で思いつかなかったんです。」
 那美恵と流留は相槌を打つ。流留は着替えを進めながらの相槌だ。

「近所で艦娘になったという人がたまたまいまして……その人は艦娘になってお給料がものすごく高くなって、いろんな地方場所に行けるようになって、前のその人とは雰囲気が見違えるようになったんです。うちの近所だけじゃなくて町内でも有名人になるくらいになったんです。」
「へぇ〜。じゃあその人に憧れて?」
 那美恵が質問すると、幸は頭を振った。
「はい。その人はもともと明るくて近所でも優しくて気の利く女性だったので、憧れといえば憧れでしたけど……私は別に有名になりたいわけじゃないし、お金ももらいたいわけでもなくて。その艦娘というのが、自分を変えるのに良い方法なのかなということをなんとなく感じたんです。」
「自分を変えたいねぇ〜。さっちゃんは口数少ないし何考えてっかわかんなかったけど、結構アグレッシブだなぁ。意外と熱血?」
 流留がそう感想を述べた。それを受けて幸は言い返す。

「そんな……私、そういうつもりじゃ……。」
「自分が嫌だったから変えようと艦娘部の展示見に来て、同調何度も試して合格勝ち取ってここにいる。さっちゃんは今の時点でも十分変われてると思うな。」
 那美恵がそう評価する。それは的確なものであったが、幸の表情は曇ったままだ。
「それじゃ……まだダメな気がするんです。近所の女性のことがすごく印象強かったので、自分もそのように変わりたいんです。私の今までの生活だと無理でも、まったく接点がなかった艦娘になるなら、今こうしている自分もまったく違うものになれるかもと思ったんです。そんな気がするから、今のままじゃまだまだ嫌なんです。」

 饒舌に語る幸の内に秘める思いを知った那美恵と流留。自分らと経緯とやり方は違えど、実は彼女は熱い人物なのだと認識するのにもはや時間がいらなかった。
 幸をフォローすべく那美恵が再び口を開いた。
「そっか。じゃあこれから、自分の思うままに艦娘の世界で動いてみるといいよ。基本的なことはあたしも教えるけど、五月雨ちゃんたちも提督も教えてくれるし、慣れてくればさっちゃんの望みはきっと叶うと思うなぁ。」
 那美恵がそう希望を含ませて言う。そしてさらに続ける。

「でもねさっちゃん。性格から何からなにまで変わる必要ないと思うな。なんていうのかな……自分らしさ? 自分じゃ悪くて嫌だと思っても、他の人からすればその人の良さかもしれないでしょ? まー、それを見極めるのはさっちゃん自身も、あたしたちだけでもダメだろうから、それはのんびり見出して必要なところだけ変えていけばいいと思うよ。」

 幸はコクリと頷いた。
 幸の話が一段落する頃には、流留はすでに着替え終わっていた。あとはベルトを締めてアウターウェアを整えるだけである。一方の幸はこれから橙色のアウターウェアを着るところである。幸が話している間に流留は着進めていた。