青の洞窟
翌日、瞑想の間に入ると、数日間を静寂に包まれた暗闇の中で過ごした。退屈しのぎとはいえ、迷いがなかったわけではない。それなりに自分自身の覚悟も必要であったためだ。
でもそれは、悪戯をして、親に大目玉を食らうというような至極単純な、短絡的な思いでしかなかった。悪戯をした結果に至る事象を考えるほど、思慮深いものではなかったのだ。
ようやく、踏ん切りをつけて覚悟を決めると、法衣を脱ぎ去り、用意してあった闘士服へと袖を通す。その粗い素材の生地を肌に懐かしく思いながら、すっぽりと身を隠す外套をその上に羽織る。まるで暗闇に溶け込むかのような姿をしながら、いよいよとばかりに、そっと秘密の通路へと身を忍ばせ、ひとつの場所を目指す。
―――シャカが待つ、その場所へ。
久しく、脈打つことのなかった鼓動がドクンと大きく波打つ。
少しずつ加速度を増していくそれは己が生きている証を証明しているかのようでもあった。ひとつの灯りも照らされることのない、窓から僅かに差し込む月の光しかない暗闇に紛れる様にして
忍び込む。
雲が月を覆い隠したその一瞬、真闇に包まれたその時―――。
凛と空気を震わす、しずかの声を聴いた。
「教皇の・・・寝所に忍び込むとは大胆不敵、恐れを知らぬ輩よ。姿を現すがよかろう。抵抗するならば―――容赦はしない」
威圧的な小宇宙をビリビリと全身に感じながら、どこか心地よささえ感じつつ、受けて立つ。
「―――ならば、私を捕まえてみせろ。捕らえられるものなら・・・な」
ぴんと張り詰められた空気。久方の緊張に心震えるものがあった。
「笑止。ならば、後悔するがよい!」
切り裂くような、破裂するような空気の振動がその場を支配した。が、すぐに静寂の闇へと包まれる。それなりの力を得てはいるようであったが、まだまだ児戯に等しいそれはあっという間に教皇の間を守る結界によって消失したのだった。
「!?」
「・・・どうした?それだけか。その程度では私は倒せぬよ」
「私の小宇宙が・・・消えた?」
明らかに動揺した様子の声をいささか不憫に思いながら、囁く。
「ここは教皇の・・・それも静養の場だ。命を狙う侵入者など吐いて捨てるほどあったのだろう。そんな場所が無防備なはずがあるまい。小宇宙さえ使わせなければ、聖闘士を統べる教皇だ。おおよそ、退治できるのだろうな」
「つまり・・・小宇宙を使った技は通用せぬ、そういうことか。ならば・・・」
小憎たらしいほど立ち直りも早かった。ふてぶてしく言い切ったシャカはようやく暗闇の底から、姿を現した。
覆っていた雲の切れ間から差し込む月光は愛でるように黄金聖衣に包まれたシャカを淡く輝かせていた。闇に紛れた己よりもよほど幽玄めいたその姿にしばらく目を奪われる。
ほっそりとした身体をすっと身構えたと同時にシャカは大きく跳躍し、振り下ろされた蹴りをかろうじて受け止めた。強烈な痺れに両腕の自由を奪われながらも、ざっと振り払った時、すかさずシャカは身を隠していた外套をも奪い去った。
一瞬、虚をつかれた形になりながらも、顔を隠す事もせずにシャカの前に己を曝した。