同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語
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ひと通りのグループに顔を出して語らった提督は飲み物がなくなった紙コップを手に、中央にあるテーブルへと近寄った。テーブルの端、川内たちがいる方向とは対角線上の逆の場所では妙高と大鳥婦人がおしゃべりをしている。妙高と歳は近いとはいえ、さすがに主婦の井戸端会議に首をツッコむほど空気の読めない野暮な男ではない。
まったくの同業ではないが近い業種のためにお互い理解のある明石たちのところに戻って会話に参加してみようかと思ったが、見るとかなり会話が弾んでいるようでとても提督が話に入れる雰囲気ではなかった。
冷静に考えると提督はボッチだった。会社や地元に戻れば気楽に会話できる友人や同僚はいるが、この場では友人と呼べるほどの知り合いはいない。仕方なしに皿を手に料理を2〜3取って適当な椅子に座って食事を再開した。
もともとそれほど社交的ではない西脇提督は、自分で懇親会という場を設けてこの雰囲気を作っておきながら、この空気にやられて若干胃が痛かった。
提督の様子に最初に気づいたのは妙高と大鳥夫人だった。近くにいるのでさすがに二人は気付き、提督に近寄って話しかけた。二人ともおっとりしているが気が利くため、話題は当り障りのないところで、鎮守府Aの艦娘10人突破の祝いの言葉や、今後の出撃や遠征任務のことを持ちかける。
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提督が愛想笑いをしながら話していると、そこに夕立が突撃してきた。彼女は料理を取るために中央のテーブル側に来ていた。提督が一人で食べているのチラリと見て、夕立の対提督レーダーがうなりを上げて彼女にビビッとさせた。つまるところ、彼女の行動はいつも突発的な思考によるものだ。
「てーとくさ〜〜ん!!」
ガバッという効果音がリアルにしそうな勢いで夕立は提督の座る椅子に飛び込んでぶつかりそうになるが、ブレーキをきかせて寸前でピタリと止まる。
「うお!?あぶないな夕立は。なんだなんだ?」
「お食事するならあたしがあ〜んしてあげるから、あ〜んしかえして。一緒に食べよ? ……あー!?」
夕立は提督の肩と腕をつかみながら無邪気に誘いかける。だがその刹那、いきなり素っ頓狂な声を上げた。
「てーとくさん、ポテト取ってる〜!!」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
提督が手に持つ皿にフライドポテトが入っており、なおかつテーブルのほうの大皿にフライドポテトがすでにないことを現実として理解した夕立は地団駄踏んで怒り始める。
「それぇ!あたしがぁ!最後にたべよーと思ってたのぉ〜〜!!」
「えー、そんなの知らんよ……。」
駄々っ子のように怒る夕立に提督は呆れつつもやりすごそうとする。提督のすぐ側で見ていた妙高は彼女に優しく声をかけて慰めた。
「夕立ちゃん。また今度作ってきてあげるから、今日は我慢して。中学生なんだから我慢できるでしょ?」
「う゛〜〜でも食べたいんだもん……」
今にも泣き出しそうな表情で提督の手に持つ皿rを見つめる夕立。提督はハァ…と溜息一つ付き、皿を夕立の前に差し出した。
「ほら。いいよ食べても。俺まだ箸つけてないからさ。」
その瞬間、夕立の表情はパァッと明るくなり、提督が差し出した皿と提督の顔を交互に見て一言口にした。
「ほ、ホントにいーの?もらってもいいっぽい!?」
「そんな顔されたんじゃ譲らないわけにはいかないだろ。」
提督は困り笑いをしながら皿を持っていないの方の手で夕立の頭を軽く撫でた。
「わ〜〜い!ありがとてーとくさん!大好き大好き!」
提督は夕立に許可を与えると、彼女はすかさず提督の皿から自分の皿にポテトを移し替え始めた。
年の割に精神的に幼い夕立。五月雨たちの学校のメンツの中では身体の発育はかなり良いが精神年齢の幼さが天真爛漫ぶりに拍車をかけていて、提督と妙高らアラサー組にとっては手のかかるでかい娘なのである。
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「あっ!ゆうちゃん!また提督におねだりしてるー!」
夕立の行為を斜め後ろから見てそう言ったのは五月雨だ。先ほど夕立が地団駄踏んで怒りだした時にその光景に気付き、いち早く近寄ってきていたのだ。
「ん?さみも食べる?」
「私はいいよ……。それよりも提督を困らせたらダメだよー。」
「だってさぁ、提督がポテト独り占めしたんだもん。」
「してない。してないぞ!?」
五月雨は夕立の言葉を受けて提督の方を見ると提督は頭を振ってそれを否定した。なんとなくわかっていた五月雨は夕立の手をクイッとひっぱり連れて行こうとした。
「も〜ゆうちゃんは我慢しなきゃ。同級生として恥ずかしいよ?」
「ドジっ子なさみに言われたくなーい。」
五月雨のツッコミにぷいっとそっぽを向いて言い返し、夕立はポテトを盛った皿を手にして時雨たちのいる場所へスタスタ歩いていった。その場に取り残された五月雨は提督の方を振り返りお辞儀をする。
「提督。ゆうちゃんがご迷惑かけてほんっとゴメンなさい!大丈夫でした?」
「あぁ気にしないで。俺も気にしてないからさ。」
「でもお食事が……。」
「大丈夫大丈夫。まだあれだけあるんだし。まぁ本当はじゃがいも料理好きだったから全部譲ったのはちょっと残念だけど。」
提督が何気なく口にした好みを聞いて五月雨はきょとんとした表情になる。
「提督、お芋好きなんですか?」
「うん。子供っぽくておかしいかな?」
「いいえいいえ!素敵だと思います!あ!違くて、おかしくないと思います!」
微妙なフォローをする五月雨。
「ありがとう、五月雨。」
「エヘヘ。じゃあ失礼します。」
微笑みながら軽く会釈をして五月雨は夕立を追いかけて時雨達の元へ戻っていった。
作品名:同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis