同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語
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一部始終を見ていた大鳥夫人は苦笑いしながら感想を述べる。
「西脇さんも大変ですね。いろんな子の面倒見ないといけないなんて。」
「ハハッ。さしずめ父親か兄か学校の先生になった気分ですよ。」
「でも皆楽しそう。ここがきっと安心できる場所だからなんでしょうね。」
「そう思ってくれてるといいんですけどね。今はまだ10人程度だからいいですけど、今後艤装が配備されたら人増やさないといけないし、その時俺がみんなの面倒見切れるかどうか。」
提督の思いを耳にして妙高と大鳥夫人は相槌を打った。
「そうですよね。提督だけでは大変でしょうし、私のような者でよければどんどんご指示ください。子供好きなので、今のあの子たちくらいの子でしたら喜んで協力いたしますよ。」と妙高。
「ありがとう、妙高さん。助かりますよ。」
「あの…西脇さん。素朴な疑問よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
大鳥夫人は申し訳なさそうに遠慮がちに提督に声をかけた。夫人が質問してきたのは艦娘のことだった。大鳥夫人の質問の意図に気づいた妙高は婦人に確認する。
「大鳥さん、もしかして艦娘にご興味が?」
「興味といいますか、提督の今のご様子見てると子どもたちのお世話大変そうなので、もっとお手伝いできればいいなと思いまして。下の娘の高子も中学生になって、それほど手がかからなくなってきたので、パート代わりにと思いまして。」
大鳥夫人は、主婦友の妙高が艦娘として鎮守府に通い、艦娘らしいアクティブな活動からご近所様よろしくお手伝いさんのように振舞っているのを見て興味を持ち始めたのだった。その思いを打ち明けられた提督は、艦娘としての活動が完全なパート代わりになると思われると肩透かしを食う面もあるので、給与など金銭的な面を含めて説明した。するとそれでも納得したのか、大鳥夫人はかまいませんと意を表してきた。
それならば今後お願いしますと言い、提督は一息ついた。ただひとつ、必ずしも希望の艤装との同調ができるとは限らないことを念を押しておいた。
説明が落ち着いたところで、提督はふと思い出したことを口にした。
「ところで大鳥さんの上の娘さんは、すでに職業艦娘と伺ったのですが、本当ですか?」
さきほど五月雨たちと一緒にいた大鳥高子から聞いたを提督は改めて確認するため問うた。大鳥夫人の側にいる妙高も初耳であり、尋ねるような表情で夫人に視線を向ける。
大鳥夫人は最初は何のことかわからない様子であったが、思い当たる節があるのか微かに頷いて答え始めた。
「もしかして、あの子のバイトのことかしら? あの子ったらちゃんと話してくれないからわからなかったわ……。えぇ、今思うとそれらしいことを言っていた気がします。」
「鶴喜(つるぎ)ちゃんももう大学生ですし、夜遅くなることも多いでしょうから心配でしょ?」
「えぇ、普段は活発なんですけど、私に似ておっとり屋なところがあるので何かとねぇ……。」
妙高は大鳥夫人の上の娘を知っているのか、名前で呼んで夫人の普段の苦労を想像して声をかける。大鳥夫人も苦笑いしながら妙高に応対した。
提督は夫人二人の井戸端会議の雰囲気に若干飲まれつつも、冗談を交えて考えを述べた。
「その……娘さんの鶴喜さん?もいつかうちの鎮守府に着任していただけると運用者の立場としては嬉しいですね〜。」
「あらそうですね!西脇さんとは面識ありますしこれだけ近くなら娘を安心して預けられますし、親子ともどもお世話になれるなら安心して勤められます。」
大鳥夫人は両手を叩いて提督の何気ない希望に賛同し、にこやかにしていた。
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五十鈴と三千花を話している間、那珂は離れたところで妙高・突っ込んでいった夕立・五月雨と何か話している提督のことが気になっていた。視線を送るわけでもなく、あくまで頭の中で意識しているだけである。
そのため若干上の空になってしまっており、三千花から注意されてしまった。
「…ねぇ!なみえ聞いてる?」
「ふぇ!?あ、なぁに?ゴメン。ボーっとしてたよ〜」
横にかかる髪をサラサラと撫でながら弁解する那珂。
「とか言って、あんたまた何か茶化すこと考えてたんじゃないでしょね?」
それを見た五十鈴は那珂の普段の行動パターンを想像して冷やかす。
「ひっどーいなぁ〜五十鈴ちゃん。あたしそんな毎日毎時毎分そんなこと考えてないよ!」
那珂は小指と薬指で軽く五十鈴の肩を何度も突きながら言い返した。
「いたっ!いたい!そこ素肌だからやめてよ。あんたの爪当たってるのよ!」
突付き突かれる那珂と五十鈴を見て三千花はプッと吹き出す。その吹き出し音を聞いた那珂と五十鈴は目を白黒させて見合う。
「ど、どしたのみっちゃん!?」
「な、なにかしら!?」
「ううん。ゴメン。二人のやりとり見てたら思わず。」
那珂と五十鈴は顔を再び見合わせて頭に?を浮かべる。那珂はその後自身もニカッと笑って三千花に返した。
「みっちゃんが何気なく笑うなんて珍しー。」
「珍しいってなによー。それじゃ私が全く笑わないみたいじゃない。」
「エヘヘ。ゴメンゴメン。みっちゃんは笑わなくても可愛いよ〜。」
五十鈴とは違い、親友に褒められて悪い気はしない三千花。
「はいはいありがとね。なみえだって十分イケてるよ。」
「フヒヒ〜。またみっちゃんから褒められちゃったぜぃ。」
ニンマリとする那珂。五十鈴はそんな二人の親友としての掛け合いを見て遠い目をしながらも微笑んでいた。
作品名:同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis