艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
「待ってくれ!」
寺西が苦渋の表情で2人の会話に割って入る。
「確かに僕が情報を十分に把握してなかったのは事実で、そのせいで君たちの命を危機に晒すことをしっかりと認識できてなかった。本当にごめん」
寺西はその場で深々と頭を下げた。その姿に時雨と満潮は動揺する。
「長官、貴方の気持ちはよく分かりましたから、顔を上げてください」
明石はそう言うと寺西のすぐ横でしゃがみ、寺西の顔を覗き込んだ。彼はギュッと目をつぶり、歯を食いしばる。五月雨と那珂は心配した表情で、寺西を見つめている。
少し時間が経ち、寺西はゆっくりと顔を上げた。
「他に、なにか言うべきことはあるかい?」
寺西は皆を見回すが、全員口を閉じたままである。
「よし、大丈夫そうならこれで解散しよう。遅くなるといけないから早めに寝るように」
艦娘たちは一言も言葉をかわさず、会議室を後にした。全員が出ると寺西は目をつぶり、細く、長く息を吐く。目を開け軽く頷くと、席を立って会議室を退出し、ガチャリと部屋の鍵を閉めた。
数日後、作戦決行の日がやって来た。いつもは何も入れられずに放置されている係船ドック内に、1隻の艦船が停泊していた。長い艦橋と大きなクレーンから、まるで工作艦のような印象を受ける艦船である。今回の出撃メンバーである那珂、時雨、満潮、五月雨、そして第2艦隊の責任者である寺西はドックまで出迎えに出ていた。
「大きい艦だね」
「そう? これでも僕らが艦だった頃の大きさより、二回りくらい小さいよ」
「そうなのか。大戦期の駆逐艦はよほど大きかったんだね」
時雨と寺西が会話を交わしていると、タラップから何人か白い制服を身にまとった軍人たちがやって来た。全員が敬礼で彼らを出迎える。
「おはようございます。日本海軍所属、第2艦隊司令長官の寺西三佐です」
「おはようございます。海上自衛隊開発隊所属、試験艦くりはま艦長の浅田三佐です。今回はよろしくお願いします」
横で出撃予定の艦娘たちは、他の士官に連れられてくりはまへと向かう。
「今回はこのような危険な作戦に艦を出していただいて、本当に有難うございます」
「いえいえ、実はこの艦は退役予定だったのが、こういう時勢になってしまって、退役を免れたんですよ。それに加えて、我らの最重要兵器である艦娘の輸送という大役を任されて、彼女も喜んでると思います」
そう言って浅田艦長は穏やかな笑顔を見せた。
「では、よろしくお願いします。貴艦のご無事をお祈りしております」
「ありがとうございます、こちらこそよろしくお願いします」
艦長が艦に戻ると、くりはまは汽笛を一鳴らしして、海へと出て行った。
くりはまを中心とする海上自衛隊護衛艦隊が南沙諸島を抜け、リアウ諸島に接近した時、随伴艦のたかなみの観測員が深海棲艦を発見した。
「総員戦闘態勢!」
アラームが鳴り響き、たかなみ、きりしま、くりはまの各艦に緊張が走る。
『日本海軍第2艦隊は速やかに発進せよ。繰り返す、第2艦隊は速やかに発進せよ』
艦内放送で第2艦隊に命令が下る。もうメンバー全員は甲板上に集まっていた。
「さあ、いっくよー!」
一番乗りで那珂が海へ飛び込む。それを見た他の3隻も急いで飛び込む。そこに寺西の入電が入る。
『全員、準備はいいかい?』
「みんなもう海に出て、戦闘準備バッチリだよっ!」
『それなら良し。敵艦隊は見えてるとは思うけど、方位89、距離30マイルを航行中だ。数は軽巡洋艦が1隻,駆逐艦が2隻のみ。頼んだよ』
「りょーかい! 那珂ちゃん頑張る!」
「那珂さんは艦娘になってから初めての実戦だから、あまり無茶はしないでね?」
「大丈夫だよ、時雨ちゃん! 4水戦センターの実力見せてあげる!」
「何かあれば私も援護するから大丈夫よ、時雨」
「みんなで頑張りましょう!」
和気あいあいとした雰囲気の中、第2艦隊は敵艦隊と対峙した。まずは先頭を行く那珂が発砲するが、敵軽巡洋艦の前方に着弾した。
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩