艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
「あ、ちょっと見込みが甘かった」
「そういうこともあるよ」
敵軽巡洋艦も負けじと応戦。直撃コースの敵弾を那珂はひらりと躱した。
「やあっ!」
続いて五月雨、時雨、満潮の3隻と敵の駆逐艦2隻が発砲する。こちらの砲弾は敵駆逐艦に直撃。軽微の損傷を与えることができた。しかし、満潮が喫水線下に直撃弾を受け、少し重いダメージを受ける。
「くッ! やったわね!」
2つの艦隊は更に接近して、殴り合いの様相を見せる。
「全艦、3時の方向に回頭!」
しかし、那珂の的確な指示によって、敵駆逐艦がどちらとも黒煙を吹いて行足が遅くなる。
「当たって!」
「お返しよ!」
遅くなったタイミングを見計らって、全艦が魚雷を放つ。損害を受けていなかった軽巡はなんとか魚雷を避けたが、残りの2隻には直撃。1隻は大きな水柱とともに海に呑み込まれ、もう1席は浮かんではいるものの動かなくなった。敵軽巡洋艦は損害が大きくなったため、退却しようとする。
「追撃するよっ! みんなついて来て!」
「長官、構わないかい?」
寺西は少し逡巡した後、軽く頷く。
『構わない。敵艦隊を追撃してくれ』
全艦が離脱していく敵軽巡洋艦を砲撃する。次々と砲弾が命中し、甲板から火を吹きつつも、敵軽巡洋艦は射程距離外へ離脱していった。これ以上の追撃は無理だと悟った那珂は追撃を諦め、大破漂流していた敵駆逐艦を沈めた。
「さあ、くりはまに戻るわよ。まったく、初戦で食らっちゃうなんて運が無いわ……」
「まって! 2時の方向に何か見えます!」
五月雨がそう言うと、風切り音とともに那珂の右舷すぐのところで大きな水柱が何本も湧き上がる。
「これはまさかだねぇ」
「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないでしょ!?」
「敵は戦艦1,軽巡洋艦2、駆逐艦2の大所帯だよ」
『そうか……出来ることなら撤退して欲しい』
「何バカなこと言ってんの!」
『そうだね。そう言いたいところだけど、後方にはまだ君たちを運んでくれた海上自衛隊の艦隊もいるし、撤退できる状態じゃない。だけど、いくら君たちでも、戦艦を含む艦隊と正面切って戦うのは流石に無謀でしか無い』
「そう? 全力で戦えばいい勝負は出来ると思うけど?」
「そうですよ! 私も頑張りますから!」
無線機から寺西の息を吐く音が聞こえる。
「長官はどうしたいの?」
真剣な表情で那珂が問いかける。
『護衛艦が北東方面に撤退するまでの時間を稼いで欲しい。こちらからは攻撃をなるべく行わずに、回避に専念して敵艦隊を足止めして、護衛艦の退避が完了次第、君たちにも撤退してもらう』
「ってことは、作戦失敗ってことだけど、長官はそれでいいの?」
「ああ。君たちの誰かを失うくらいなら、少将にこっぴどく怒られて始末書を書くほうが遥かにマシだよ」
「あーあ、せっかくの那珂ちゃん初センターだったのに、作戦失敗で終わっちゃうのかー、残念だなー」
「……出来る範囲で埋め合わせはするよ」
「本当? それなら何してもらうか考えておかなくっちゃ!」
戦艦の砲撃が再び着弾する。今度は先頭の那珂を挟み込むように水柱が上がった。那珂は無線のマイクを切って、後ろの3人に話しかける。
「大切に思ってくれてるのはありがたいんだけど、あれは過保護すぎるよね〜」
「まったくよ! あの甘ちゃん司令官、戦争を経験してないから、あんな生ぬるいことばかり言えるんだわ」
「この前の戦闘でも小破で撤退したからね。悪い、とまでは言わないけど、もうちょっと突っ込んだ指揮をしてくれないと今後もこういった失敗が続きそうな気がするんだよね……」
「でも、長官も私達を思ってしてくれてるんです。悪く言っちゃダメです」
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩