艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
くりはまが鎮守府の係船ドックに入ってくる様子を、寺西と明石はドック脇で待っていた。口には出さないが、渋い顔と唇の乾き具合から彼の緊張具合が見て取れる。明石もそんな彼の緊張に煽られて、固唾をのみながらくりはまを凝視していた。タラップが岸へと渡され、彼女らの姿が見えた。3人共、往きの服とは違って海上自衛隊の作業服を着ているが、足首や額などに見える包帯と重い足取りが損傷の深刻さを感じられる。
「第2艦隊、たっだいま戻りました〜!」
「お疲れ様。みんな、困難な状況の中で帰ってきてくれて何よりだよ」
「ふん、あんな奴ら、私達にかかれば赤子の手をひねるようなものだわ」
「まあ、あそこまで遠出した事がなかったからヘトヘトだけどね」
「大変でした〜」
明るい顔を見せる艦娘たち。寺西は目元と口の端っこだけ笑顔を作ると、ウンウンと軽く頷いた。
「報告は後で構わない。まずは入渠ドックで体を休めてくれ」
「わっかりました〜」
そう言うと那珂たちはそのまま入渠ドックへと向かっていった。入れ替わりでくりはまの浅田艦長が寺西のもとへとやってきた。
「長官、お預かりしていた第2艦隊、全員お返しいたしました」
「ありがとうございます。護衛艦の方々も含めて、無事、帰ってきていただけて何よりです」
「任務は達成できませんでしたが、彼女らのお陰で南沙諸島の敵主力艦隊は、大きなダメージを被ることになりました」
「ええ、私としても、あの編成でよくあれだけ頑張ってくれたと思っています」
「その認識を持っていただけているのであれば十分です。では、私はこれで」
さっと艦の方に戻っていく艦長に、寺西が再び声をかける。
「すぐに出港なされるんですか?」
「ええ」
「5分でもいいので、お時間いただけませんか?」
「それくらいなら構いませんが、どうされましたか?」
歩を進めていた艦長の近くに寺西が少し駆け足で向かう。
「深海棲艦と接敵した時の状況を詳しく教えてください。あの時どういった状況で、彼女たち判断を下したのかをしっかりと自分で考えたいんです」
「……分かりました。今後のこともあるでしょうし、私がお話できることはお話ししましょう。出港を遅らせます。艦長室へどうぞ」
寺西は艦長とともにくりはまへと消えた。その様子を見ていた明石は、一抹の不安を覚えながらも、鎮守府へと戻っていった。
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩