艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
富山はボタンを押すと、机の上の受話器を取る。
「もしもし? 明石か。開発を頼みたいものがあるんだがいいか? そうそう。艦娘の兵装に使えるペイント弾がほしいんだよ――ああ、空砲じゃ命中判定ができないからな――そればっかりはしょうがない。たとえ軽くても、レーザービームを当て合うより実戦に近い。で、いつくらいならできそうだ? わかった、じゃあその方向性で。開発が遅れるようだったらすぐ連絡してくれ。じゃあまた」
受話器がガチャリと置かれる。
「ということで、模擬弾はすぐに調達できそうだ。模擬戦は……」
富山がそう言いつつ、机の引き出しから手帳を取り出す。寺西も懐からあわてて手帳を取り出す。
「そうだな、十日後はどうだ?」
「十日後は――こちらも特に予定ありません」
「よし、じゃあ十日後、1300時に模擬戦を行う」
「分かりました。第2艦隊のメンバーにも伝えておきます」
寺西は部屋を後にした。
「確かに気にしている様子は伺えたな」
また資料を机の真ん中に戻して富山がつぶやく。
「たぶん、さきほどの那珂さんの言ったことは本当みたいですね」
先程まで書類作業をしていた大淀が顔をあげて、富山の方へと向く。
「そうか? 俺が聞いてた感じじゃ、まだ五分かなと思ってたんだが」
「いえ、あれは確実にそうですよ」
「まあ、大淀が言うならそうなんだろ。そうなると少佐には、超えないといけない壁ができちゃったわけだな」
「壁というより、認識のズレですけどね」
「今度の模擬戦は、場面想定をしっかりやっておいてみるか。よし! 午後の演習で俺が第2艦隊の艦娘たちにも、模擬戦の目的を先に伝えておこう!」
そう言うと、富山の書類に書き込む音がにわかに大きくなった。そんな様子を見て、大淀はふうと息をついて微笑み、また書類作業を再開した。
模擬戦の当日が来た。岸辺で第1艦隊と第2艦隊のメンバーが並ぶ。第1艦隊も戦力増強を推進しており、新たに2隻の艦娘が所属していた。。1隻は黒く長い黒髪が特徴で、あまり快活そうには見えない駆逐艦初雪。もう1隻は背が高く、短髪でプロポーションの良い戦艦陸奥だった。
「今回の模擬戦は、本土に敵艦隊が向かってくる防衛戦を想定して行われる。訓練だからといって、気を抜かないように」
富山長官の訓示が終わると、第1艦隊と第2艦隊はともに出港した。第1艦隊は鎮守府から東へと進み沖合へ。第2艦隊は鎮守府正面で待機していた。富山と寺西は無線室へと赴き、艦隊式の準備をする。
「今日はよろしくお願いします」
「おう、俺のやり方から色々学んでくれ」
寺西が手をそっと差し出すと、富山はその手をがっしり掴んで握手をした。2人が席につくと、寺西の一声で訓練が開始する。
「横須賀鎮守府から方位140、32マイル先で敵深海棲艦を補足。第2艦隊、直ちにこれを迎撃せよ」
「りょーかい! 那珂ちゃんのステージ、みんな楽しんでね!」
那珂率いる第2艦隊は意気揚々と浦賀水道を南下していく。
「本当にこんなので、あの甘ちゃん司令官の意識が変わるの?」
「まあ、少しでも変わってくれるとボクは思ってるよ」
今日も強い日差しが照りつけ、穏やかな海がキラキラと反射する。突然、周りを見ていた五月雨の眉が、ピッと上がった。
「敵艦隊、発見しました!」
艦隊全員で敵艦隊の方向に向く。まだ小さいが、はっきりと黒い影が海に落ちているのが見えた。
「真っ直ぐこっちに来るね……提督、どうする?」
『対艦戦闘用意。敵艦隊には戦艦もいるから、こちらの射程距離まで引きつけて攻撃してくれ』
「了解!」
旗艦の那珂を先頭に猛然と速度を上げる第2艦隊。第1艦隊のメンバーは強者揃いであったが、南沙諸島での戦闘を経験した彼女らは、対等な勝負ができると考えていた。
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩