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艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり

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 風切り音とともに、陸奥の主砲弾が艦隊のすぐ近くのところに着水する。飛沫を切って、彼女たちはぐんぐん前に進む。視線が交差し、一斉射が始まった。轟音が辺り一面にとどろき、水煙がたちこめる。両艦隊が砲弾を撃ち終えると、距離を置いて横並びに航行を始めた。五月雨が機関部に命中弾を受けて速力が落ちたこと、吹雪が那珂の砲撃をモロに受け、ダメージが蓄積されてる以外は両者とも損害はまだ軽微のままだ。
「いっくよー!」
 那珂の掛け声とともに、第二艦隊は魚雷を一気に放り出す。第一艦隊の面々もお返しとばかりに魚雷を放つ。しかし、双方ともに素早い回避運動を取ったため、特に大きな被害は出ずに終わった。
 またすぐに砲撃が始まり、戦場は混戦を極めた。しかし、練度も火力も下の第二艦隊は、ジリジリと被害を増して行く。
「那珂ちゃん、中破しちゃった!」
「全く何やってるのよ! ほら、次来るわよ!」
「いたぁい……」
 被害が広がる中、無線からノイズ音が鳴る。
『全艦、横須賀まで退避!』
「ちょっと待って!」
 那珂が寺西の言葉を聞いて反論しようとする、しかしその瞬間、海面下の白い雷跡が第二艦隊とぶつかった。
「……時雨、轟沈判定」
「ああ……五月雨、轟沈判定です……」

 寺西はそっとヘッドセットを置いて、隣に座っている富山のそばに立った。
「富山長官、これ以上の演習は無意味です」
「寺西少佐、すぐに席に戻れ。艦隊長官が指示を出さないと、彼女たちはどうしようもないぞ」
「これ以上は無意味です」
 振り向きもしない富山に対して、寺西は言葉を重ねた。富山は眉をしかめて少し歯を噛みしめると、マイクに向かって命令を発した。
「第1艦隊に発する。敵艦隊は戦意を喪失。深追いはしてこないだろう。このまま東京湾に入り、作戦を続行せよ」
「ま、待ってください!」
 想像もしていなかった富山の言葉に、寺西は動揺する。こぶしをギュッと握り、怒りを露わにするが、富山はピクリとも動かない。目を強く瞑り、肩を落とし、寺西は自分の無力さと情けなさを全身で感じた。
「東京都で海に面している区は3つ」
 富山がヘッドセットを外して立ち上がり、寺西の方へと向く。顔が地面を向いて、口を閉じている寺西には、富山の表情など伺いようがなかった。
「その3区に住む住人の数は150万人超だ。勿論、区に住んでいる人が全員死ぬわけじゃない。でも、働いている人がオフィスに居たら? 東京だけじゃなく、神奈川や千葉の沿岸都市に砲撃し始めたら? 犠牲者は150万人で済むかどうかすら怪しい。俺達はそんな結果を背負いつつ、仕事をしているんだ」
 寺西の肩に優しく手を載せる。寺西も黙って動かない。
「俺も考えることは一緒だ。彼女たちを失いたくない。でも、彼女たちも俺も、軍人としていままでやってきたんだ。戦うのであれば、常に最悪の手段――全滅覚悟で最後の攻撃を行うことも考えないといけない。それが国を守る軍人としての覚悟だ。自衛隊の宣誓にもあったろ?”事に臨んでは危険を顧みず”って」
「はい……」
「つまりはそういうことだ。少佐は完全に志願したと言うわけじゃないから、その心構えを持つのは難しいかもしれない。だが、俺たちはそういった覚悟があるってことだけは覚えていてくれ」
 富山は穏やかな表情で軽く頷くと、ヘッドセットを再び手に取った。
「第1、第2艦隊に告ぐ。演習は現時点をもって終了とする。帰投せよ」
『分かりました。すぐ帰投します』
 富山はヘッドセットの端子を無線機から抜く。
「今日のこれからの時間と明日一日、少佐は休暇を取ってくれ。もしこれ以上、艦隊運営を続けていくことが難しいと思ったら、退役をしてくれてもかまわない。俺が上層部に掛け合おう」
「……分かりました。少し考える時間をください」
「明日の夕方までに決めてくれればこちらでどうにかする。時間はないが、しっかり考えてくれ」
 富山はすこしゆっくりと、静かに部屋の外へと出ていった。残された寺西の背中をは、弱々しくすぼんでいた。