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艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり

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 寺西はその後、自室へと戻り、どうするべきか悩みつつ、すぐに床についた。
 翌日、 起床ラッパの音が木製の廊下を駆け巡ると、寺西は体を起こす。いくら上司に休養しろ と言われたところで、なんとなく何もしないのは気持ちが悪く、寺西は顔を洗って制服に着替えた。カーテンを開けると、落ち込んだ気分とは対照的なまでに強い朝日が差し込み、目を細める。
「はぁ」
 ベッドに腰を下ろす。食堂に行く気が進まない。
 また彼はため息をつくと、自室に新たに運び入れた机に向かって座る。特にやることもないので、視線がふらふら歩きだすが、特に面白そうなこともない。仕方なく、旧海軍の戦術について詳しく解説された本を手に取り、最初のページから読み始める。
 彼が本を読み始めてから30分が経った頃、特に熱中しているわけでもなく、しかし他に注意が散らない程度で本を読み進めていると、控えめに扉を叩く音が2回、部屋に響いた。
「はい」
 特に感動もなく立ち上がって扉の前まで彼が行こうとすると、扉が開かれ、長く艶のある青髪が視線に入ってくる。
「ああ、どうしたんだい五月雨」
「あ、長官。じつは……」
 そう言う五月雨に彼が視線を落とすと、両手の上にお盆が載っかっていた。
「そうか、朝食、持ってきてくれたんだ」
 さきほど、彼が少し気が引けると思ったことが、申し訳なく感じられる。
「その、昨日も長官、夕食をお召にならなかったので」
「ああ、昨日はあの後は疲れてすぐに寝ちゃったからね。その、心配かけてごめんね」
 彼はうつむき気味な五月雨の頭を撫でる。すると五月雨の顔をぱぁっと明るくなり
「いえ、だいじょうぶですっ! 長官、すごく落ち込んでいるのかなぁと思うと、部屋に失礼するのもだめかなと思っていたんですが……元気そうで何よりです!」
「うん。だいぶ言われたことがショックではあるけど、富山長官の言っていたことは、確かに日本を守るための軍人にとって大切なことだからね。あまり落ち込んではいないよ」
「良かったです〜落ち込みすぎて、長官が艦隊指揮が出来なくなったら、とても悲しかったので。でも、この調子なら大丈夫そうですね!」
「あ、ああ」
 寺西は昨日言われた富山からの提案を迷っていた。今、”ああ”と言ったところで明日には彼はこの鎮守府にいないかもしれない。その事実に、少し彼の心は針で指先を刺されるような瞬間的な痛みを感じた。
「じゃあ、これお渡ししますね」
「ありがとっ――!」
 受け取ろうとして寺西が盆に手を伸ばすと、寺西の両手がお盆の重量を受けきる前に、
お盆が重力に従って落下を始める。突然のことで寺西は盆が手から滑り落ちそうになるが、落ちる前に手を盆の横側に素早く回り込ませたことで、落下は防がれた。だが、皿から飛び出した鮭の切り身が盆の上に着陸し、味噌汁の大波が切り身を洗い流し、波は制服のズボンへと排水された。
「あっ、またやっちゃっ――ご、ごめんなさい!」
 お盆がなんとか水平を取り戻した時、五月雨の顔からさっと血の気が引き、肩がこわばり始めた。彼女はハッとすると、あわててポケットからハンカチを取り出して、制服の膝の部分をポンポン叩くように拭く。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いや、今のはしっかり持たなかった僕のせいもあるよ。今日は休日だし、予備の制服も着任前に買ってあるから、気にしなくて大丈夫だよ」
 寺西が声をかけても、五月雨は申し訳なさそうにうつむく。寺西は少しかがんで五月雨に再び声をかけた。
「大丈夫。気にしなくていいよ」
 そう努めて笑顔で寺西が話しかけると、五月雨も頷いて顔を上げる。ふと、寺西は部屋にかける時計を見る。彼女が部屋を訪れてから10分ほどの時間が経過していた。
「五月雨、もう行ったほうがいいんじゃないか? 今日は朝から警備任務だろ?」
「あっ、もうこんな時間! 長官、これで失礼します!」
「うん、頑張ってね」
「はい!」