艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり
最後の綾波は綾波型駆逐艦の1番艦である。見た目は茶髪で長いポニーテールと吹雪、白雪に近いものを感じるが、性格は2人と違って、かなりおっとりとした印象を受けた。
午前10時、作業中の明石を除いた第2艦隊のメンバーである、寺西と時雨は会議室に集められた。
そこに富山長官が現れ、クリアファイルを机の上に置くと、立ち上がったこちらに向かって口を開く。「明石から話は聞いている。彼女には途中から参加するように俺から言っておいたから、大丈夫だ」
「お心遣い感謝します」
「気にするな。さて、本題だが」
そう言うと、富山は天井にぶら下がったプロジェクターの電源を入れ、部屋の電気を落とした。小さなファンの音ともに、プロジェクターの光線はホワイトボードに直撃し、鮮やかな横須賀近辺の海図を映しだした。富山は寺西と時雨、そしてじきに来るであろう明石の分の資料を手渡した。資料の題名には作戦計画書と書かれている。
「現在、深海棲艦の影響範囲はかなり広く、日本沿岸でもその存在が確認されている。幸い、陸海空の自衛隊が決死の防衛行動を行っているため、本土への影響はかなり抑えられているが、損耗のことまで考えると、かなり厳しい状態にあるといえる。そこで、日本海軍はこの横須賀を中心として、艦娘艦隊による海上警備を行っている。どうやら我々の必死の抵抗のおかげで、深海棲艦側は斥候のための艦隊を割く程度しかこちらを刺激してこない。今後はわからんが。そこで、この斥候部隊の排除を新設した第2艦隊に任せようと思い、こういった形で作戦を立てさせてもらった。何か質問はあるか?」
富山は出没予想地点と文字を書いて、鎮守府近辺の海を赤いマーカーで丸く囲む。
「では、斥候部隊とおっしゃってましたが、その戦力はどれくらいでしょうか?」
「その時々によって違うが、軽巡洋艦が1、駆逐艦が3,4隻くらいの艦隊で来ることが多いな」
2人が話していると、コンコンっと扉をたたく音がして、部屋に明石が入ってきた。そして明石の後ろには、みずみずしく美しい青色の長髪をたなびかせた、時雨より少し幼い印象の少女が続いて部屋に入ってきた。3人は彼女らのもとに寄って、出迎えた。
「会議中失礼しますね。新しい艦娘が完成したので、お連れしました!」
そう言うと、青色の髪の艦娘は緊張した雰囲気で話し始める。
「あっ、あの、 私、五月雨って言います! よろしくお願いしますっ!」
「おう、俺はこの鎮守府の司令長官をやってる富山だ、よろしくな。あとこっちが……」
「寺西です。階級は少佐です。よろしくお願いします」
「寺西少佐が君が所属予定の、第2艦隊の司令長官だ。よろしくやってくれよ?」
「分かりました、よろしくお願いしますね!」
「こちらこそ」
そう言って2人は握手を交わした。
「久しぶりだね、五月雨」
「時雨ちゃん、私も会えて嬉しいよ!」
2人は軽く抱擁をする。その行動を見て、寺西は明石にこっそり話しかけた。
「あの2人、仲がいいみたいだけど、どういう関係?」
「彼女たちは同じ白露型駆逐艦なんです。人間で言うところの姉妹関係ですね。同型艦のことを姉妹艦とも言いますし」
なるほど、と寺西は納得していると、富山が
「さて、感動の再会の途中で悪いが、先に作戦説明を終わらせてもらってもいいか? 姉妹水入らずの時間は後でいっぱいとってくれ」
「ああ、そうだね。ごめんね」
「ごめんなさい!」
そう言うと、2人はおとなしく席に座った。
「さて、どこまで話したかな――そういえば質問の途中だったな。他に質問はあるか?」
「そうですね……今は思いつかないですね」
「僕も斥候部隊を追い払ったことは何度もあるからね。特に聞きたいことはないかな」
「よし、それなら会議は以上だ。斥候部隊はいつ現れるかわからないから、それまでは訓練を頑張って欲しい。とはいっても、俺の経験だと長くても2週間以内には来ると思う。あと、何かわからない箇所が出たら、俺の所まで来てくれ」
そう言うと富山は会議室を出て行った。寺西は再び作戦計画書に目を落とすと、その情報量の多さに圧倒される。
「これは読みきって理解するのにも、労力が必要みたいだ……」
作品名:艦隊これくしょん―艦これ― 第2艦隊健在なり 作家名:瀬戸信浩