Lovin' you 6
「Zガンダムを盗もうとしてZに乗り込んだら何だかんだでアーガマに乗る事になっちゃたんだよね。」
それに目を丸くしたかと思うとアムロは爆笑した。
「お姉さん!?」
「ああ、ごめん!ガンダムのパイロットは代々ガンダムをかっぱらうんだなぁと思ったら笑えてきちゃって!」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら答える。
「笑い事じゃないぞ!毎回かっぱらわれる方の身にもなれ!」
いつの間に現れたのか、ブライトが腕を組んで仁王立ちで立っている。
「え?お姉さんもガンダム盗んだの?」
「まあね」とブライトの視線にバツが悪そうな顔をしながら答える。
ブライトはカツカツとこちらに歩みを進めると、アムロの向かいの席に座って尋ねる。
「まぁ昔の事はいい。ところでアムロ、お前カミーユに会いにダブリンに来たのか?」
「あ、はい。カミーユに謝りたくて…。」
「謝る?」
「…だって、私があの時宇宙に上がってたら…あの人が行方不明になったり、カミーユだってあんな事にはならなかったかもしれないから…。」
「そんな事…。お前の状況を考えたらやむを得んだろう。」
そう言いつつ、ブライトは1年戦争の時と同様、もしもあの時アムロがいたら、おそらく今と状況はかなり違っていただろうという確信はある。
「それでもやっぱり自分のあの決断が間違っていた事に変わりはないから…。」
「そうか…。それで、カミーユに会って…。お前その後どうするんだ?」
「あの人を探しに行こうと思います。きっとあの人は生きてるから…。そしてあの時、手を振り払ってしまったことを謝りたい。それから大事な事を伝えたい…。もし許されるなら今度こそ側で支えたい。」
「しかし、探すったってどうやって…。」
「とりあえず月に行こうと思います。宇宙に上がればあの人を感じられるかもしれないし。」
「月?何かアテがあるのか?」
「はい。アナハイムエレクトロニクス社に昔、父の助手だった人が居るんです。家にもよく来ていて私も可愛がってもらった人なんですけど、その人がメカニックとして雇ってくれるっていうのでそれに甘えようと思います。」
「アナハイムなんて連邦の出入りもあるし危険じゃないのか?」
「ええ。でも、逆に連邦やネオ・ジオンの情報も手に入りやすいし、アムロ・レイが女だって知っているのは連邦でも一部の上層部や研究員だけなので…、それにエドが私と子供の偽造IDを作ってくれるっていうので多分大丈夫です。」
「エド?」
「はい。エドヴァルド・レイブン。昔、父の助手として一緒にガンダムの開発に携わっていた人です。メカニック兼テストパイロットのできる人間は重宝するって言って、子供も一緒に受け入れてくれるそうです。」
「エドヴァルド・レイブン!?そりゃアナハイムの技術部門のトップじゃないか!」
ブライトはアムロの行動力に脱帽する。
『そうだ、こいつはこうと決めたらありとあらゆる手を使ってでも突き進む奴だった!』
「それに…もし、あの人がかつて復讐に生きた様に間違った道を進もうとしていたら、命を掛けてでも止めたい。それが私に出来る償いだから…。その為にはあの人に対抗できる最高の機体が必要でしょう?アナハイムならそれをこの手で作れるし…」
「お前、そんな事まで考えているのか…。」
「だって、相手はあの人ですよ?そのくらいはしないと…。その時にはブライトさんにも力を貸して欲しいです。多分まだ連邦に私の軍籍は残っていると思うので復帰してあの人と戦います!」
「復帰ったってそう簡単にはいかんだろう?」
アムロは目を伏せて少し笑う
「また、モルモットに戻ってやるって言えば多分…大丈夫だと思います。」
それにブライトは立ち上がって激昂し、ジュドーも大きく目を見開く。
「バカな事を言うな!!今度こそ殺されちまうぞ!」
「でも、そうしなければならないなら…、私は構わない。」
そう言い切るアムロの瞳は全てを受け入れ、覚悟を決めた強い意志を持っていた。
その瞳の意思の強さにブライトは脱力すると椅子にドカリと座りこむ。
「お前は母親だろう。子供の事も考えろ。」
「でも、この子たちの父親の事だから…。」
ジュドーはいまいち内容を理解しきれていないがアムロが命がけの覚悟を決めている事だけはわかった。
ーーーーー
アムロは、カミーユに会う為カミーユのいる医務室に向かった。中にいたファにカイルを預け、少しの間二人にして欲しいとお願いした。
「カミーユ…。」
カミーユの眠るベッドまで行き、ベッド脇の椅子に座る。
カーテンを挟んで隣にはプルがいる。
アムロはカミーユの手を握ると、もう一度名を呼んだ。
「カミーユ」
カミーユはその声に薄っすらと目を開け、アムロの方へ視線を向ける。
しかし、その瞳は虚ろで、目の前にいるアムロを写してはいなかった。
「カミーユ…、ごめん…ごめん。私が弱いばっかりに、君に全てを背負わせてしまった…。」
カミーユの手を握り、己の額につけて謝る。
「結局、私がした事は、カミーユやあの人を傷つけただけだった!」
アムロのその悲しい思惟に隣のプルが涙ぐむ。
『なんて深い悲しみなの…』
涙を流すアムロの髪をカミーユの手がそっと撫でる。
「カミーユ?」
先ほどまで視線の合わなかったカミーユの瞳がアムロを見つめる。そして、頭の中にカミーユの声が聞こえた。
『アムロさんのせいじゃありません。前に言ったでしょう?貴女が悲しいと僕も悲しいって』
そのカミーユの声に更に涙が溢れ出す。
「カミーユ…、優しすぎるよ」
アムロはカミーユの手を握り締め泣きすがった。
すると、突然、アーガマが向きを変え、ダブリンの方向にUターンした。途端、カミーユが何かを察知したのか暴れ出す。
「カミーユ!?」
暴れるカミーユの手を抑え込むと、アムロの頭にも強烈な"悪意","危険","不安","恐怖"といった思惟が流れ込んで来た。
「くっ!!何だこれ!…宇宙?宇宙が…落ちてくる!?」
アムロはカミーユを自身の身体で抑え込みつつ頭を押さえる。
そこへ、コロニー落としの情報を聞いたジュドーがプルを心配してやって来た。
「プル、大丈夫か?ダブリンにコロニーが落ちるって聞いてプルが気持ち悪がってるんじゃないかと思って」
「私は我慢出来るけど…。」
プルは視線をカミーユのいるカーテンの向こうへと送る。隣ではカミーユの苦しむ声が聞こえる、そしてもう一つ女性の呻き声も…。
ジュドーは慌ててカーテンを引き、隣のベッドを覗く。そこには暴れるカミーユを抑え込みつつ頭を押さえて苦しむアムロいた。
「お姉さん!!」
「ジュドー…、ごめんカミーユを…。」
ジュドーはインターフォンでファを呼び出すとアムロの代わりにカミーユを抑え込む。
「カミーユにはわかってるんだ!でなきゃ艦が向きを変えただけでこんなに苦しむ筈がない!」
カミーユの横で床に座り込み、頭を押さえてアムロ呟く。
「宇宙が…落ちて来る。」
ファにカミーユを任せ、カイルを受け取ったアムロが艦橋に行くと、ハヤトが小型機でアウドムラからアーガマへと救助活動の相談に来ていた。
「ハヤト…。」
「アムロ、お前どうしてここに?」
ハヤトの顔を見た瞬間、カツの姿が目に浮かぶ。
作品名:Lovin' you 6 作家名:koyuho