Lovin' you 8
「そんな個人的な理由でシャアが取引をする訳がないだろう?スペースノイドの自治権獲得とかいうならまだしも…。それに元々連邦政府にとって私は生かすも殺すも面倒な存在だからね。向こうにとっては私の命がどうなろうと痛くも痒くもない。こんな要求、シャアの怒りを買うだけだ。」
アムロの言葉にナナイは溜め息漏らす。
「その通りです。正直、昨日の貴女との事で大佐は少し考えを変えようとしていました。しかし、連邦政府の対応は大佐の怒りを買い、作戦の実行に踏み切らせてしまいました。」
「なっ!!」
走り出そうとするアムロを警備兵が取り押さえる。
「申し訳ありませんが、貴女には営倉へと移動して頂きます。」
アムロはナナイに営倉へと連行された。
「アムロ隊長!!」
営倉に入れられていたジュドーがアムロの姿に声をあげる。そして、頬を腫らしたアムロの顔を見て眉をしかめる。
「酷い…。」
手錠を外され、牢に入れられたアムロをジュドーは抱きしめる。
「何でこんな事!!」
涙を浮かべて叫ぶジュドーの背中をアムロはトントンとあやす様に叩く。
「私がいけないんだ。あの人は悪くない。」
「そんな!!」
アムロの言葉にナナイは目を見開く。
『あんなに酷い目にあったのに許せるのか?』
「それよりもジュドー、不味い事になった。シャアがアクシズの落下作戦を実行に移した。」
「なっ!」
「私は何があってもシャアを止めたい。あの人にそんな大罪を背負って欲しくないんだ。」
するとアムロは牢の側に居たナナイを柵越しに羽交い締めにし、隠し持っていたメスを突きつける。そして警備兵へと告げる。
「私をここから出せ!従わなければ彼女を殺す!!」
戸惑う警備兵にナナイは冷静に告げる。
「彼女を出しなさい。」
警備兵は戸惑いつつもアムロを牢から出す。
アムロは警備兵を手錠で拘束し、ジュドーにナナイを拘束させ、走り出そうとしたところでナナイに呼び止められる。
「これに着替えていきなさい。」
ナナイはアムロのノーマルスーツを差し出す。
「え?何故?」
ナナイの行動にアムロとジュドー、そして同じくアムロに拘束された警備兵も戸惑う。
「貴女が昨日言ったのでしょう?ネオ・ジオンの人間が全てアクシズの落下作戦に賛同しているわけではないと。」
「ナナイ大尉?」
アムロはナナイに向き直る。
「私は大佐を愛しています。恋人として、副官として彼を支えてきました。」
その言葉にアムロは胸が痛くなる。
「けれど…、私には大佐を導くことは出来なかった。大佐が歪んだ方向に向かっていると分かっていても止められず、ただ、従うことしか出来なかった。」
「ナナイ大尉…」
「貴女には大佐を導く事が出来る。貴女たちは共にあるべきだったのです。」
ナナイはその美しい顔をアムロに向け、言い放つ。
「シャア・アズナブルを正しい方向へ導いて下さい。あの方には人類を導く力があります。その力をこんな事で失わせないで下さい。」
ナナイの真剣な瞳にアムロも応える。
「わかった」
アムロはノーマルスーツに着替えるとジュドーに向き合う。そして腰まで伸びた赤茶色の髪を掴むと持っていたメスでバッサリと切った。
「アムロ隊長!?」
その髪をジュドーに手渡すと「ごめん」と謝る。
「こんな物しか残せなくてゴメン。カイルとライラに愛してるって伝えて」
「隊長!!駄目だよ!俺、言っただろ!一人で全部背負わなくてもいいって!あの子達の為にも命を大切にしてって!あの子達の手を離しちゃ駄目だ!」
アムロは髪を握るジュドーの手を上から包み込むと悲しく笑う。
「ありがとう。ジュドー。でもね、7年前、子供を選んだ私はあの人の手を振り払ってしまったんだ。だから今度はあの人の手を取らないと。」
アムロは目を閉じ、軽く深呼吸する。
そして、開いたその瞳はパイロット、アムロ・レイの、戦士のものだった。
「ジュドー・アーシタ少尉!後の事はよろしく頼む!」
「ナナイ大尉。申し訳ないけれどジュドー少尉をロンド・ベルに返してやって欲しい。」
アムロは二人に向け敬礼をすると、踵を返しνガンダムの待つモビルスーツデッキへと走って行った。
「アムロ隊長…!!」
ジュドーはアムロの髪を握りしめ、その後ろ姿を見送るしかなかった。
モビルスーツデッキに行くと、シャアのサザビーは既に出撃してしまっていた。
「間に合うか!?」
アムロはνガンダムのコックピットに入るとパネルを操作しシステムを起動させる。そしてガンダムを固定していたワイヤーを引き千切る。
静止しようと駆けつけた兵士達に離れるように告げるとレウルーラを飛び出して行った。
アムロは精神を集中させ、シャアの気配を追う。そして脳裏に輝く金の気配を見つけ出す。
「いた!」
シャアはアクシズのメインエンジンに火がついたのを確認すると、ラー・カイラムからの核攻撃に備える。そして放たれた核ミサイルをファンネルで打ち砕いた。
「シャア!!!」
アムロはサザビーに向かい最大出力で宇宙を駆る。しかし、そのシャアを守る為、ギュネイのヤクト・ドーガが立ち塞がる。
「アムロ・レイか!?脱走したのか?何でもいい!!今度こそ貴様を倒す!!」
ギュネイのヤクト・ドーガがファンネルをνガンダムへと向け攻撃してくる。アムロは飛び交う閃光を全て躱すとファンネルを撃ち抜く。
「何!ファンネルが全滅!?」
アムロの神業的な攻撃にギュネイは手も足も出ない。ファンネルを失ったヤクト・ドーガはビームサーベルを手に接近戦を仕掛ける。
「クソ!俺だってニュータイプだ!お前になんか負けない!!」
ヤクト・ドーガとνガンダムのサーベルが激しくぶつかり合う。そしてνガンダムからの繰り出される凄まじい攻撃にヤクトの右腕は引き裂かれ、メインカメラも潰される。両脚の動力源も破壊されνガンダムのサーベルがコックピットを狙う。
「クソ!!ここまでか!この俺があんな女に負けるなんて!!」
ギュネイが覚悟を決めた瞬間、νガンダムはサーベルを引いた。
「何の真似だ!!さっさと殺れ!」
νガンダムが接触通信で話しかける。
「君のニュータイプ能力はまだまだ伸びる。その力はこれからの未来に必要だ。今まで、シャアを守ってくれてありがとう。」
νガンダムはヤクト・ドーガから離脱するとシャアのサザビーを目指して飛び去った。
「アムロ・レイ?お前…死ぬ気か?」
ギュネイは死んだモニターに、映らない筈のνガンダムの後ろ姿を見る。
「あれが…ファーストニュータイプ、アムロ・レイ…。」
その光景をモニターで見ていたシャアは呟く。
「ギュネイでは数分の足止めにしかならなかったか…。来い!アムロ!!決着をつけよう!そして私を止めてみろ!!」
「ブライト艦長!!νガンダムの機体信号をキャッチしました!!」
ラー・カイラムのオペレーターが叫ぶ。
「何!!位置はわかるか?!」
「アクシズの後方!モニターに出します。」
モニターに映し出された映像にはνガンダムとシャアのサザビーが映し出される」
「アムロ!!」
ブライトはνガンダムへと通信を試みる。
「アムロ!!返事をしろ!!」
ザザザというノイズと共にアムロの声が届く。
「…ブライト…。心配かけてすまない!」
作品名:Lovin' you 8 作家名:koyuho