Lovin' you 8
「しかし…。この暖かさを持った人間が争い、地球を破壊するんだよ。それを分かれ!アムロ!」
アムロは揺れるコックピットを這いながらシートへと戻る。
「分かってるよ!だから世界に人の心の光を見せなきゃならないんだろ!」
シャアは目を閉じるとサイコフレームの蒼い光を身体中で受け止める。
「…アムロ。私はララァに私を導いて欲しかった。彼女は私にとって母の様な存在だった。」
「お母さん?ララァが?」
「君は私にとってどんな存在なのだろう…。ア・バオア・クーで君と剣を交えた時、強い光を放つ瞳に惹かれた。そして、金色の夕陽の中で再会した君に心が熱くなった。」
「シャア…。」
「ダカールで君を抱いた時。今まで味わった事のない喜びを感じた。そして、君に手を振り払われ絶望した。」
「ごめ…ん」
アムロの瞳から涙が溢れる。
「いつも私の心を強く揺さぶるのは君だった。結局、ネオ・ジオンの総帥になったのも、君にまた会いたかったからかもしれない。戦う事になったとしても君と会いたかった。」
「私も…グリプスで貴方がいなくなった後ずっと貴方に会いたくて探してた…。そして、貴方が姿を現した時、何があっても会いたくて…連邦のモルモットにされることすら構わなかった。」
シャアは顔に微笑みを浮かべる。
「アムロ…。こんな状態になって今更だが、どうやら、私は君を心から愛しているらしい…。」
アムロの瞳から大粒の涙が溢れ出す。
「私も…愛してる!貴方を…シャア・アズナブルを心から愛してる。」
「今…君を抱きしめられないのがもどかしい。
二人でララァの元へ行けば抱きしめられるだろうか…」
シャアの瞳からかも涙が溢れる。
「うん…。」
その瞬間、サイコフレームの蒼い光が大きく膨れ上がり二人を飲み込むと光の帯が地球へと伸びて行く。そして地球を包み込み、人々へと美しく暖かい光を届ける。
ラー・カイラムの艦橋でカイルとライラはその光景を抱き合いながら見つめる。
「お父さん、お母さん…。」
気丈に振る舞っていたカイルの瞳から涙が溢れる。
「アクシズが地球の落下軌道から逸れて行きます!!」
ラー・カイラムの艦橋にオペレーターの声が響く。しかし、その場にいたブライト、アル、他のクルーもただ、その光が消え行くまで光を見つめ、その場に立ち尽くした。
暫くの間皆が悲しみに暮れていると。ライラが突然声を上げる。
「お母さん…!お母さん!起きて!」
その声にカイルがライラを見つめる。すると、カイルも叫ぶ
「お母さん!!!」
ブライトが二人に駆け寄る。
「生きているのか!?」
二人は手を繋ぎ目を閉じる。そして、カイルが口を開く。
「お父さん!お父さん!お母さんを助けて!!」
真っ暗な脱出ポッドの中で頭の中に子供の声が響き渡る。
『お父さん!お父さん!』
「誰だ…」
その声にシャアの意識が覚醒する。
『お父さん!お父さん!お母さんを助けて!!』
「私を…父と呼ぶ声が…」
そして、ふとダカールでアムロが語った子供の名前を思い出す。
ーーー"スペースノイドもアースノイドもみんな同じ海の子なんだって。だからそんな思いを込めて名付けたんだ"
"それではその名前は"人類を結び付ける希望"と言う意味なのだな。"
「カイル!」
シャアはその名を呼ぶ。
『そうだよ!カイルだよ!!』
「私は生きているのか?!」
『うん。お母さんも生きてる!でも怪我をしてるんだ!このままじゃお母さんが死んじゃう!だからお母さんを助けて!!』
「何!アムロはどこだ?」
『お父さんの脱出ポッドの側にいるよ』
「νガンダムは無事か!?」
『うん。まだ動くよ!だからお父さんがνガンダムを動かしてお母さんをラー・カイラムに連れて帰って来て!』
「しかし!νガンダムのハッチを開けても大丈夫か?アムロはヘルメットをしているか?ノーマルスーツに損傷は無いか?」
『うん。大丈夫。ヘルメットを被っているしスーツも破れて無いよ』
「分かった」
シャアは脱出ポッドのハッチを開けると目の前にある焼けただれたνガンダムのハッチを緊急ボタンを使って開く。
そこにはコックピットにフワリと漂うアムロがいた。
「アムロ!!」
シャアはアムロを抱きしめるとシートへと座る。アムロの口からは血がポコリ、ポコリと丸い水滴となって溢れる。
「アムロ!大丈夫か!?」
アムロの状態を確認すると肋骨が骨折している事に気付く。
「折れた肋骨が肺を傷付けたか!?」
シャアはアムロを優しく抱きしめると、νガンダムのアームレイカーを握る。
「カイル!!ラー・カイラムはどっちだ!」
『そのまま前方右方向に進んで!途中に隕石があるから注意してね』
指示通りに進むとカイルのいう通りアクシズのカケラであろう隕石が目の前を漂う。
「これがニュータイプの本来の力なのか…」
暫く進むと点滅する光が見える。
ラー・カイラムが救難信号を点滅している光だ。
「アムロ…、我々の息子は凄いな。」
そして、νガンダムはラー・カイラムのモビルスーツデッキへとゆっくり降り立った。
ーーーラー・カイラムの艦橋ではカイルが突然遠くを見つめて語り始める。
初めは何が起こったかわからなかったが、ア・バオア・クーの脱出時のアムロの声を思い出し、ブライトはカイルの見つめる方向に目を向ける。
「アムロとシャアは生きているのか!?」
カイルはブライトの問いには答えず、他の誰かとまるで会話をする様に話し出す。
『うん。まだ動くよ!だからお父さんがνガンダムを動かしてお母さんをラー・カイラムに連れて帰って来て!』
その言葉にブライトは救難信号を点滅させる様指示を出す。
暫くすると正面にキラリと光る白い機体が見えた。
「νガンダムだ!!」
艦橋のクルーから歓喜の声が上がる。
「モビルスーツデッキ!νガンダムが着艦する!準備を急げ!」
デッキのクルー達が慌ただしく受け入れ準備に入る。
「医務室のハサン局長に連絡を!アムロの緊急手術の準備だ!」
アルは医務室へと駆け出し、子供達はモビルスーツデッキへと急いだ。
騒めくモビルスーツデッキに摩擦熱で焼け爛れたνガンダムがゆっくりとドックインする。
ドック内に空気が充満するのを待ち、νガンダムがハッチが開く。すると、ドックにいたクルーが皆動きを止めハッチを見つめる。
そこからジオンのノーマルスーツを着た男がアムロを抱えて姿を現わした。
男はその金髪を揺らしながらフワリフワリとゆっくり、アムロに負担がかからない様に細心の注意を払って降りてくる。
その二人の元にブライト、そして子供達が駆け寄る。
「アムロ!!」
ブライトが叫ぶ。
その声にアムロを抱える男が振り向く。
「ブライト…。」
ブライトはその男の穏やかな表情に、かつて共に戦った時の男を思い出す。
「クワトロ大尉、お帰りなさい。」
その名に男は目を見開くと、ふふと笑い、
「ブライト艦長。クワトロ・バジーナ只今帰艦した。」
ブライトと二人微笑みを交わす。
「アムロは?」
「おそらく肋骨を何本か骨折している。吐血している事から肺を損傷している可能性がある。」
「了解した。医療班!!アムロを医務室へ!!」
すると、ブライトの後ろから幼い子供二人が顔を出した。
作品名:Lovin' you 8 作家名:koyuho