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白薔薇の祈り

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 時が流れるのはあまりにも早く、季節は既に冬だった。
 その時オレは哀愁と愛執の同居する小さな胸を抱いて、ぼんやりと犬の遠吠えに耳を傾けていたような気がする。あたりを一望すると、今年も並盛の街をちらちらと白い雪が埋め尽くしていた。十年後のこの街はマフィア同士の戦闘下にあるだなんて話はまるで嘘のよう。自分がいなかった数ヶ月そこらの間も、街は何一つ変わることなくそこにあった。
「ツナ!」
 右肩に学生鞄をひっかけ、向こうから山本が手を高くあげてオレを呼ぶ。オレがのろのろ振り返っている隙に、彼は自慢の駿足ですぐ近くまでやってきた。はぁはぁとはき出される息は雪のように白い。
「どうしたの山本」
「なー、この後ヒマ?」
「なんで?」
「や、ホラ、今年もこうして雪つもったしさ。せっかくだから皆で雪合戦でもやろうぜって言ってたんだ。ツナもやらねぇ?」
「あー……」
「来年の冬は受験とかいろいろあって忙しいだろうしな……。ま、気が向いたらでいいんだけど」
「うーん、やりたい……けど、この後はちょっと用事が……」
「そっか、わりーな。じゃまた今度な!」
 もと来た道をかけてゆく級友の背中を見送りながら、オレはダッフルコートのポケットに手をつっこんだ。金属の冷ややかな硬さが爪とこすれ合ってかちゃりと音を立てる。オレはそのままポケットの中の時計を包み込むように握りしめた。てのひらにじんわりと冷気が伝わってくる。それからオレは深呼吸してゆっくりと、抜けるような空を仰いだ。
 怒濤の日々から一気に平穏な日常に戻り、そのあまりの落差に、あれらはすべて幻だったのではないかと思ってしまうことさえ多々ある。確かなものは何一つなく、日に日に遠ざかっていく記憶だけが蜃気楼のようにオレの周りを取り囲んで、手をのばしても触れることはできない。翼を夢想する旅人のように、オレはひたすらに十年後の未来に想いを馳せていた。

 守護者三人重態の知らせが入ってきたのは、あの後すぐのことだった。
 ストレッチャーで三人それぞれが緊急治療室に運びこまれ、ボンゴレ医療チームが総動員で治療に精を出した。三日目で山本に意識が戻り、五日目で獄寺君の目が覚めた。そんな中ただ一人、ヒバリさんの昏睡状態だけが続いた。ヒバリさんが一刻も早く目を覚ますようにと誰もが天に祈った。しかしヒバリさんはいつまでたっても眠り続けたままだった。
 確かに危険な状態だが、まったく希望がないわけではないと医者は言った。できる限りの手は尽くした、後は彼の気力次第だと。気力、ねぇ……。オレは呆然とつぶやいた。
 大丈夫ッスよ十代目、あいつは気力だけが取り柄みたいな奴だったじゃないですか。
 そうだぜツナ、ヒバリは殺しても死なねーって。まだあと九十年は生きるぜ。
 オレを元気づけようと誰もがそんな無責任なことを言った。ヒバリさんの傷の根の深さも知らずに。
 傷心のオレを励ますかのように、ヒバリさんの腕時計を渡してくれたのはリボーンだった。読心術も嗜む彼のことだ。きっと、オレとヒバリさんの間にあったことには大方気がついていたに違いない。オレは手渡された腕時計をぼんやり眺めたが、どうにも実感がわかなかった。
「奇跡みてぇだ」
 伏せ目がちにリボーンがつぶやく。言葉の続きをうながすように視線をやると、リボーンが厳かに続けた。
「信じられねぇ。全身使い物にならないくらいボロボロにされちまったのに、この時計だけ無傷とは」
「ホントだ、すごく綺麗なまま残ってる。なんでかな」
「おそらく咄嗟に左腕を庇ったんだろう。無傷で勝てる相手ではないと踏んで、肉を切らせて骨を断ったんだな。左手一本であの数の敵を片付けるとはさすがヒバリだ」
「でも、どうしてそんなこと……。ヒバリさんは右利きだろ?」
「そんなもん、答えは一つしかねぇ。守りたかったからだろう」
「こんな腕時計を?」
「違う。お前との約束だ」
 その言葉を聞いたとき、どうしてかオレはヒバリさんを永遠に失ったような気がした。この世界のヒバリさんと会話をすることは、もう二度とないだろうと予感した。
 オレたちは眠り続けるヒバリさんを一人残して十年前の世界に帰ることになった。オレはせめて、何か形に残るようなものが欲しいと発作的に思い立ち、ヒバリさんの腕時計を勝手に十年前の世界に持ち帰った。戦闘の衝撃か、腕時計は二時の方向をさしたままちょうど針が止まっていた。



作品名:白薔薇の祈り 作家名:夏野