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Theobroma ――南の島で5

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「寝取ったんじゃない、誘われたから応じただけだ」
「出たよ、モテ男発言」
「うるさい、昔の話だ」
「んでも、シロウが聞いたら、ショックだろうなー」
 ハッとする。
 そうだ、シロウがそんな話を聞いたら……。
「ぜ、絶対に、言うなよ!」
 無駄だと思うが釘をさしておくことにする。
「そういう過去の過ちは、早めに告白しておけよー」
 サグが忠告をくれた。こういう意見は率直に受け入れた方がいいと思う。
「う……、あ、ああ、そうする」
 素直に頷くと、
「「「「「「ぶっ!」」」」」」
 仲間が一斉に吹き出した。
「な、お、お前ら!」
「じゃ、アーチャー、シロウによろしくなー」
 いつもの面子は、ささっとオレから離れていく。シロウを背負っている手前、追うこともできない。
「逃げ足の早い奴らだ、まったく……」
 渋々だが、おとなしく奴らを見送り、家までの小径を歩く。
「ふーん。いろいろあったんだ……」
 ぎくり、として背後を目だけで窺うも、顔が向けられない。
「シロウ、起きて……」
「若気の至りってやつ?」
「あ、ああ、そ、そう、若気の、だ」
 うまく口が回らない。
「ふーん」
 なんだ?
 シロウが何も言わない。
 これは怒っているのか、それとも呆れているのか?
「シ、シロウ、本当に、昔の話なんだ、今は、」
「うん」
 きゅ、とシロウの腕に力がこもった。
 不安にさせているのだろうか?
 シロウは何も言わない。だから、オレは今回のように間違った方へ考えてしまう。
 これは、どうにかしなければ。
 これからずっと一緒にいるのなら、オレたちは、もっと理解し合わなければいけない。
「シ、シロウ、その、すぐにではなくていいから……」
「ん? 何が?」
「少しずつでいい、だから、思うことを言葉にしてくれないか?」
「思う……こと?」
「オレの言ったことをシロウがどう感じたのか、理解することが難しい。知らずに傷つけていることもあるかもしれない。いや、あるだろう。だから、教えてほしい、シロウがいいと思うことはもちろん、嫌だと思うことも、すべて。恋人とは、そういうものだろう?」
「えっと、俺……、その……、そういうの、よく、わかんないから……」
「だから教えてほしいんだ。なんでもいい、些細なことでも、腹が立ったことでも、うれしかったことでも、なんだっていいんだ。シロウが何を考えて、何を思っているのかが、オレは知りたいから……、いろいろなことを話して、知り合っていこう」
「う、うん……」
 戸惑うシロウの小さな返事が聞こえた。



***

「シロウ、今日の作業が終われば、目途が立つのか?」
「うん。そうだな、やっと」
「なら、行こうか」
 アーチャーに誘われた。
 繁忙期がいったん終わったことを伝えると、俺を優しい眼差しで見つめ、ゆったり笑んでアーチャーは言う。本国に行こうか、と。
 もちろん、二つ返事でオッケーだ。
「なら、次の日曜は漁を休む」
「終わってからでもいいけど?」
「せっかくだから、いろいろ見に行こう。シロウの靴も買い替えた方がいいだろう?」
「え? あ……」
 足元を見て、初めて気づいた。
 この島に来た頃から履いているトレッキングシューズが、もう相当くたびれている。
「気づいていなかったのか?」
「う、うん、全然」
 アーチャーは呆れ返った。
「本当に、カカオ以外は気にならないんだな、シロウは……」
 苦笑交じりに言われて、頭を撫でられる。
「お二人さーん、そういうのは、家でやってくれませんかねー」
 ターグがカカオ豆の入ったカゴを持って目を据わらせている。
「あ、ご、ごめ――」
「ターグ、愛妻がかまってくれないからといって、やっかむな」
「う、うるせぇよ!」
 ターグの奥さんは、少し前に子供を産んだばかりで、今は赤ちゃんにかかりきりだそうだ。仕方ないよな、かまってもらえないのは……。
「幸せオーラ振りまくんじゃねーよ」
 アーチャーに噛みつくターグを適当にいなしながら、アーチャーは焙煎小屋へ歩いていく。
 島は平和だ。
 間桐商事もあれきり音沙汰がない。たぶん、桜が止めてくれたんだろう。
「桜にお礼言わないとなぁ」
 白い雲を浮かべた青い空を見上げ、伸びをした。
 日曜は、本国で買い物か。
(靴か、こういうのよりスニーカーの方が軽くていいな。あ、ちょうどいいから、調味料、探してみようかな……)
 アーチャーにご飯を作ってあげたいなと思っても、俺の慣れ親しんだ調味料がない。俺がアーチャーにご飯を作るためには、買い揃えたいものがいくつかある。
(口に合うかはわかんないけど……)
 料理の腕前が一級品のアーチャーに、俺の作ったご飯なんて大したものでもないかもしれない。だけど、アーチャーに作りたいと思った。
 前に、慎二に作ってやるのに自分は食べたことがないって、拗ねてたのもあるけど、純粋に、俺が作ったご飯を食べてもらいたい。
(お粥とおにぎりしか、作ったことないし……)
 仕事は俺の方が遅くなるから、毎日は無理だけど、休みの日ならできる。
 今度の日曜は、アーチャーと買い物だ、と意気込んで、ハタと気づく。
(あれ……? これって、デートじゃ……)
 急に恥ずかしくなってきて口元を押さえ、にやけそうになるのを、どうにか抑えた。



「わー……」
 青い空に映える白い外壁のホテル。
 南国のリゾートって感じの外観は、ビーチに向けて横広で全室オーシャンビューらしく、敷地もとても広いみたいだ。
 ホテルの玄関口までの白い石畳を静かに走っていく車は高級車ばかり。俺たちが歩く歩道のわきにはヤシの木が等間隔に植えられて、誰が見たってリゾートホテルって感じ……。
 つい足が止まってしまう。なんだか、場違いなところに来てしまった気がする。
「どうした、シロウ?」
 アーチャーが少し前で振り返って首を傾げる。
「どうしたも、こうしたも……」
 どうして言ってくれなかったんだよ、アーチャーが勤めていたホテルが、世界でも指折りのVIP御用達のホテルだって!
(うーん、今さらどうこう言ってもはじまらない。ここまで来たんだから、帰るのも勿体ない、だけど……)
「シロウ?」
 俺を待ってくれるアーチャーの側にやっとのことで歩み寄る。
「こんな格好で、よかったのかな……」
 アーチャーを見上げると、
「ディナーは堅苦しいが、ランチはラフなものだ」
 そう言って笑う。
 本国に買い物に来たついでに、以前からの約束だった、アーチャーの勤めていたホテルで食事をしようってことになった。
 家を出る時に聞いていたら、それなりにちゃんとした格好をしたのに、船内の電話でホテルの料理長と連絡取って、予約しちゃうんだもんな……。
 アーチャーだってラフな格好だし、別に俺だけってわけじゃないけど、アーチャーは容姿のせいか、ラフなのにラフに見えない気がする。俺はラフな格好は、本当にラフにしか見えないのに……。
「神様って、不公平だよな……」
 一応、襟はあるけど、ちょっとくたびれた感のあるシャツだし……。
 島にいると、服装とかをかまわなくなってしまって、ちょっと問題かもしれない。
 胸元を抓んで、ため息をついていると、
作品名:Theobroma ――南の島で5 作家名:さやけ