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「お前のあののろのろした速度でかよ? 上まであと数百メートルはある。落ちない分だけ、ここにいた方がましだろ。」
そう言いながら、ボッシュは、腰のパウチから、小型のラップトップを取り出した。手首の記憶装置から、赤い光がしゅるりと伸びて、すぐに消える。ラップトップの隅をスライドさせると、格納されていた細い通信ケーブルがするすると伸び出した。
「どうする気?」
「どのみち、あの足手まといの親子をつれて、ここから上まで梯子で登ろうなんて、正気の沙汰じゃない。だから、上から迎えにこさせるんだ、うんと派手に知らせてやる。ここに俺たちが、いるってことをな。」
「連絡とるの? どうやって?」
ボッシュは、黙って、数歩先の岩壁にはりついた白いコントロールボックスに近づき、がんがんと蹴った。小さなコントロールボックスの扉はひしゃげて開き、中を走っていたケーブルがむき出しになる。
ラップトップから伸びた通信ケーブルの先をくわえたボッシュが、コントロールボックスの内部から色のついたケーブルをずるずると引き出した。
「知ってるか? こんな末端の通信ケーブルからだって、ラインさえつながっていれば、街じゅうの通信を占拠できるんだぜ?」



 その日のことは、ちょっとした悪夢として、下層街のレンジャーの間で、後から何度も語られた。
その話を耳にするたび、リュウは、ちょっと肩をすくめて、隣の金髪頭を振り返るのだけれど、もちろん、抜け目のない真犯人は、本当のことをおくびにも出さなかった。
この相棒の思いついた”ちょっとしたいたずら”は、ただでさえ、大混乱を極めていたレンジャーたちの神経を逆なでるのに、充分な効果を発揮したのだ。
そのことを思い出すたび、リュウは、ほっと溜息をついてしまう。
 その日、まず下層街の広場の真ん中に備え付けられた政府広報のディスプレイの画面が乱れたかと思うと、誰もが凍りつくような静止画像が、すべての画面に映し出された。
ターミナルの券売機にも、セーブトークンの記録ディスプレイにも、街じゅうの公的ラインにあるディスプレイには、同時にすべて同じマークが、赤々と輝いていた。
同じころ、レンジャー施設内部の作戦本部室の壁一面にずらりと並んだスクリーンにも、同じものが映し出された。
それを見るゼノ隊長の眼鏡の上にも、きちんとふたつ反射して、この若く美しい隊長の苦笑を彩った。
「隊長、これは……。」
「ずいぶん大胆なテロリズムですね。発信源は?」
「いま、やっています!!」
若い通信担当は、指をすべらせながら、キーボードを叩いた。「映像を発信している地点が特定されました。7番採掘抗へのエレベータ、地下1450メートル地点の横穴中央部のケーブルからに間違いありません。」
「あの下っ端2人……でしょうか。まさか。」 ヒッグスが禿げ上がった額を何度もこすった。「よりにもよって、これは……。」
「どちらにせよ、われわれが絶対に無視できない最重要課題というわけね。」
人々の目の前で、下層街の画面という画面のすべてに、誰もがひそかに知る図形、白い三角に赤い剣の突き刺さった反政府組織トリニティのマークが、割り込んだ通信のノイズに震えながら、映し出されていた。
政府が、これをそのまま、放っておけるわけがない。
「ただちにエレベータホールに待機中の救助チームを、該当地点へ向かわせなさい。そこにいるのが人質なら救出を、トリニティなら射殺を許可します。7番採掘抗に火がつく前に、急行なさい。」




5.

 手配書からダウンロードした反政府組織の旗印を、画面上に浮かべた携帯端末を、ボッシュは放り出し、手に収まる大きさの四角いそれが、コントロールボックスから引き出されたケーブルにつながれたまま、ぶらぶらと揺れた。
すでに点滅することもやめているガス検知器に目を落としたボッシュは、リュウに頭を振って見せた。
「上から迎えが来るぞ、急げ!!」
「わかった。」
検知器まで放り出したボッシュの後に続いて、リュウも横穴の入り口へと駆け戻った。
急にあわただしく走ってきたレンジャー2人を、岩壁に張り付くようにしゃがんでいた母親と、その母親をかばうように気丈に立つ少女が、不安そうに見つめる。
「ねぇ、こんなところにじっとしていて、だいじょうぶなの? 本当に助けはくるの…?」
母親の言葉が聞こえなかったように、ボッシュがその前を通り過ぎ、横穴の入り口から身を乗り出して、エレベータのたて穴を見上げているため、リュウが、その前で足を止めた。
リュウと母親の間に、立った少女が、丸く、黒い瞳で、リュウを見上げる。
思わず、リュウは、その少女の頭に、軽く手を置いた。
「ええ、パートナーが本部にここの位置を報告しました。すぐに、同僚が救助にくるでしょう。救助のときには命綱をつけますので、しがみつかずに、しっかりとロープを握ってください。救助の際はお子さんと別々になりますが、……すぐにお母さんも上にいくから、先に行って、待ってるんだよ。」
最後の部分を、前に立つ少女に話しかけると、少女は、しっかりとうなづいた。
一度も泣き出すこともなく、無言で耐えたこの少女の強さに、リュウのほうがうたれる思いだった。
「ガスはどうなったの? なんだか息が詰まりそう…空気は足りてるのかしら…。」 母親はすっかりおろおろと立ち上がり、壁に手をついている。
「リュウ、上から合図が来てる。そっちの準備をさせろ。」 手にしたライトを上に向けて振りながら、ボッシュが怒鳴った。
「腰のベルトが緩んでないか、確かめてください。」 そういいながら、少女のベルトをしっかりと確かめ、母親に手を貸して、リュウは、ふたりを横穴の口近くへと誘導した。
深い穴の底から、なまぬるい風が吹き上がり、リュウも思わず口に手を当てて、咳き込んだ。
さっき、底の方へ降りていったエレベーターが、途中で宙ぶらりんに静止しているのが見える。
ボッシュが、穴の上に向かって、ライトを持った右手をぐるぐると振り回した。
リュウが、見上げると、サーチライトのような丸い光が、たて穴の岩壁をあちこち照らしながら、落ちるのに近い速度で、リュウたちのところへと向かってくる。
四方八方を向いていた複数のライトがいっせいにこちらを向いて、横穴の入り口へと収束し、リュウは、まぶしい光に一瞬、視界を奪われた。
横穴から身を乗り出していたボッシュが、とっさに頭を引くと、ひゅん、と引き伸ばされたワイアの鳴る音がして、ゴーグルとガスマスクをつけた重装備の黒い影がふたつ、リュウたちのいる横穴の入り口へと飛び込んできた。
落下の速度を殺すように、身をかがめて、数歩歩き、男のうちの一人が、ゴーグルを取った。
「お前ら、全員無事か!」
「ヒッグス主任!」
どちらかといえば、背が小さく、ずんぐりした体型で、デスクワークをしているところしか見たことがないヒッグスが、思いがけず身軽なことと、ヒッグスみずから救出に出向いてくれたことに、リュウは驚いて、思わず声を上げた。
「おう、下っ端。よく箱から出て、踏ん張ったな。いますぐ、ワイアで引き上げてやる。乗客はそっちのふたりで全部か。」
作品名:EXIT 作家名:十 夜