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EXIT

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リュウは、奥の壁まで走り、抱き上げた子供を、壁に固定された梯子にとりつかせ、上へと登るよう指示し、自分はきびすを返した。
右手に剣を抜き、まっすぐにディクのほうへと向かったパートナーの後を追おうとした。
だが、リュウは間に合わず、通路の真ん中で、すぐさま足を止めてしまう。
目の前で、ボッシュが邪魔くさそうに、カローヴァの喉もとを半月の形に切り裂き、とどめに切っ先を獣の右目に突き刺していた。
倒れ落ちた巨大な獣から流れ出た血が、リュウの足もとにまで、伸びてくる。
リュウには、わかっていた。
リュウの足を止めさせたのは、巨大なディクへの恐怖でも、戦闘へのとまどいでもなく、相棒の剣の容赦のない残忍さだった。
ぴくりともしないディクのようすを見てとると、リュウは、すぐにまた向きを変えて、奥の壁の方へと戻った。
奥の壁に垂直につけられた梯子は、一段一段のはばが高く、追われていた子供は数段登っただけで、腕を梯子の横木に回し、しがみついている。
地上3メートルの高さの木に登り、降りられなくなった子猫のように、背中をこちらに向けたまま、飛び降りることもできないで、固まってしまったかのようだった。
「もうだいじょうぶ、終わったよ。降りておいで。」
リュウが手を差し出して、触れようとするとびくりと震え上がり、いっこうに降りてこようとする気配がないので、しかたなくリュウは、梯子の同じ段まで登ると、子供の背後から腕を回し、体を支えて、一段ずつゆっくりと降ろしていった。
最後の2段になったところで、リュウが飛び降り、しがみついていた子供を抱え上げると、床に下ろしてやる。
縮こまっていた足が床についたとたん、ねじをまかれた玩具の自動車のように、子供はぱっと走り出した。
リュウの手を逃れ、出口へと向かう途中で、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきたボッシュとすれ違う。
右手にレイピアをぶら下げたままのボッシュは、空いた左手で、走ってきた子供の襟首をいきなり掴み上げると、後ろにぐい、と引いた。
バラバラ、と子供のポケットから金属のねじが床に散らばり、暴れたたはずみに、顔を半ば隠していた帽子が脱げた。
「ボッシュ…!」
リュウがあわてて駆け寄ると、上着の後ろ襟をひっつかんだ手をはずそうと、もがく子供の顔が見えた。
茶色い大きな目をした、少女だった。
ほんのわずか、ウェーブがかかった茶色い髪は、首筋の真ん中あたりで乱暴に切られている。
少女が暴れるたび、やわらかい髪が、いくつかの束になって、左右に揺れ動いた。
その髪の束の間から、見え隠れする少女の細っこい首筋を見て、ボッシュが声を上げた。
「おい……、無印だぞ…?」
少女の首筋にバーコードがないことが、リュウのところからも見て取れた。
その隙をのがさず、少女はようやくボッシュの手を逃れ、下層街とは反対側にある倉庫の出口へと、まっすぐに駆け出していき、あっという間に姿を消した。
ちッ、と聞こえるか聞こえないかくらいに、軽く舌打ちをしたボッシュは、少女の上着からこぼれ落ちたねじのひとつを、拾い上げている。
「官給品だ。ここの備品を狙ったんだろう。」
「――かもね。」
もう、急ぐこともなく、リュウは、ゆっくりと歩いてきた。
「それより、見たか? あいつ、無印だったぜ?」
拾ったねじを床に投げ捨てたボッシュが、なによりもそれに驚いたようにリュウに言う。
「ここじゃ無印なんて、珍しくもないんだ。このあたりは、最下層へと続く地域だから。」
リュウは、目を丸くしているボッシュにむかって、辛抱強く、そう答えた。


「ボッシュ1/64、最初の任務はどうだった?」
基地に戻るなり、エドマンドが問いかけた声が、ふたりを迎えた。
ボッシュは、つかつかと部屋の中へ歩きながら、ディクとの闘いで汚れたグローブを両手からひきはがし、部屋の右側に備え付けてあるゴミ箱へと投げ込む。
窓際のデスクに座ったエドマンドは、わざと書類から目を上げずに、窓際の椅子を回し、ぎこちない音を立てた。
「――とくには。あぁ、カローヴァを一匹仕留めました。」
「ひとりでか、さすがだな! ほかに犯罪は?」
言い方にわずかにおもねるような響きがあることを、後ろにいるリュウも感じ取る。
「いえ。――あとは、報告書で。」
ボッシュは、さらりとかわして、デスクの上に置いてあったラップトップをひっつかんで、奥にある応接用のソファに腰掛けた。
それを見たエドマンドが、目を細めて、小さくリュウに手招きする。
「リュウ1/8192、」
「なんでしょうか。」
「どうだ、エリートのパートナーは?」
「どうって…、まだ初日ですし……。」
そういいながら、さっきの戦闘でのボッシュをリュウは思い浮かべる。
「…ただ、ディクを倒したときの手並みは、見事でした。」
エドマンドは、急にむっつりして、手にした書類をがさがさとかき混ぜた。
「そうか。パトロール中、なにかあったら、すぐ俺に報告するんだぞ、リュウ1/8192。」
「はい。」
「…あぁ、これ回ってきた手配書きだ。署内の掲示板に、適当に貼っとけ。」
「了解しました。」
いまさら、こんなものを……とぶつぶついいながら、エドマンドはリュウに薄いプラスティックの束を投げてよこした。
ノートの表紙くらいの大きさの薄っぺらいシートの表面に、光の加減によっては七色に見える塗料がコーティングされており、下には「容疑手配中」の文字と、シートの中央には人物の立体写真が配置されている。
立体写真は角度を変えて見ることができるだけなく、シートの上下左右を指でなでることで、中の人物を上下左右さまざまに回転させて表示できる。
「容疑手配中」の文字の下には、その手配中の犯罪者の名前と、あればID、ご丁寧にも、レンジャーがリーダーで読み取れるバーコードまでが印刷されていた。
リュウは、数十枚の手配書きを順番にめくりながら、念のため、手首にとりつけた記憶装置に、すべてのバーコードを読み取らせていった。
こうしておけば、現場でバーコードを、手配書きと照らし合わせたいときに、いつでも情報を呼び出すことができる。
最後の一枚になったとき、はっとして、リュウの手が止まる。
最後の一枚には、最重要手配を示す蛍光色の赤で派手に縁取られた手配書きには、「政治犯」「テロリスト」「反政府組織リーダー」といった物騒な手配理由といっしょに、赤い三角に白い剣がつきささったような特徴的なマークが描かれ、「メベト1/4」という名前と青白く光るバーコードがつけられていた。



「ここだよ。」
仕事を終えて、レンジャー施設に隣接された宿舎へ戻ってきたリュウは、自分たちに割り当てられたレンジャー・ルームへとボッシュを案内し、ドアのキーナンバーを手早く打ち込んだ。
スライドドアが開くと同時に、暖かいライトが部屋に灯る。
「ふーん。」
ボッシュは、腕を組んだまま、ドアのそばに立つリュウをすり抜けて、部屋の中へと進み、リュウは、少しはらはらしながら、その後ろに続いた。
親元に同居している、ごく一部の例外を除き、新米レンジャーは、たいていは宿舎に住んでいる。
作品名:EXIT 作家名:十 夜