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皆16歳で施設から出なくてはならなくて、でも1人で借家を借りるだけの蓄えがまだなく、そこに住むしかないためにしかたなく住んでいる者が多く、サードで何年か働いてそのうち宿舎を出て行くことが多い。
宿舎であてがわれる部屋は、天井と床のつなぎめがない、ダークグリーンの金属の箱のようで、ほかのなにかというよりは、棺桶か冷蔵庫に似ていた。
サードにあてがわれる部屋は、すべて同じように冷たくて狭くて暗く、間取りが同じなので、隣の部屋に間違えて入っても、ぱっと見たときには自分の部屋に見えるくらいだった。
けれど、リュウが覗き込んだレンジャールームは、今朝出てきたときとは、ずいぶん雰囲気が違っていた。
昨日いきなり押し寄せてきた、乱暴なほこりっぽさも、消えている。
部屋の奥へ続く細い通路の天井には、六角形の形をしたパネルがモザイクのように数個はりついていて、その裏から天井を照らすように、温かみのあるオレンジの淡い光が漏れている。
手前のミニキッチンから一段降りたところにある居住スペースには、白とこげ茶のぶちもようの革でできたラグが敷かれ、黒革のクッションをつなぎ合わせたような奇抜なデザインのソファが、新たに置かれている。
一番驚くのは、今朝方まではただの金属でしかなかった左手の壁一面が、巨大なモニターに付け替えられていたことだ。
だれかのアクセスを待っているかのように、画面の右下に青緑色の楕円が回転しながら、伸びたり縮んだりしている。
案内役のはずだったリュウまでが、ぐるりと見回して部屋の奥に進み、一番奥にある二段ベッドの下段に、やっぱり自分のトランクが押し込められているのを見るまで、そこが自分のいた部屋だとわからなかった。
ボッシュは、コツコツとブーツのかかとを鳴らしながら、室内を一瞥し、腕を組んだまま、横に立つリュウに言った。
「ふん、そう、悪くないな。」
「……驚いた。」
「は? お前に割り当てられた部屋だろ?」
「え、あぁ、そう。でも、昨日――おとついまではなにもなくて、デスクとパイプ椅子だけで、まるで殺風景だったんだ。これじゃ、まるきり別の部屋みたいだよ。――見違えた。」 リュウが確かめるように、取り替えられた最新型の黒い冷蔵庫の前にかがみこみ、扉を開けしめした。「――ミネラルウォーターが山ほど、詰まってる。」
「それで?」 棒立ちしたボッシュが、いらついたように靴を鳴らし、リュウを憎憎しげに見て、言葉を早めた。
「え? それでって?」
「……先に案内しろよ。俺の部屋はどこだ?」
 それから、事情を話し、押し黙ったボッシュが、ようやく真新しいソファに、かなり不機嫌そうに沈み込むまでに、ほぼ30分を要した。
リュウは、ほっとして、ふたたび冷蔵庫の扉を開け、よく冷えた瓶を2つ取り出すと、1つをボッシュに手渡した。
「…まぁ、いい。わずかの間のことだ。」
「やっぱり、すぐに、上に戻るんだ?」
リュウは、どこか、ほっとしたような気持ちで答えた。
サプライズ・パーティで、貸し出された玩具は、その日の終わりには、返さなくてはならない。
突風のようにやってきた出来事が、そしてまた、何事もなかったように消え、元の生活に取り残されることに、身構える癖は子供のときからついている。
それなら、失われることを、先に知っていた、ほうがいい。
「当たり前だろ、ようやく任務が始まったんだぜ? どこで始まろうと問題じゃないさ。ただ、先を、急ぐだけのことだ。」
意外に楽天的なのか、ボッシュは、ソファの真ん中で足を組むと、革のパウチから手で握れるくらいの大きさの楕円形の端末を取り出すと、ぱちりと蓋を開いた。
とたんに、部屋の壁の大型モニタの右隅の幾何学模様が、息づいたように、明滅し始めた。
「おいリュウ、さっきのデータ、寄こせよ。こっちにもインプットするから。」
「さっきのデータ……。」
「ふざけるなよ、指名手配犯のデータ、エドマンドから渡されたのを、自分の端末に入れてただろ。」
一度もこっちを見てなかった癖に、とリュウは思いながら、右手首の端末をするりとはずし、ボッシュへと渡す。
赤い光がふたつの端末をつなぎ、ボッシュの手元の端末に、手配犯のデータが流れ込むのを、壁のモニタが表示しはじめた。
ボッシュの端末と、リンクしていたのだ。
転送はすぐに終了し、ボッシュは、リュウの端末を投げて寄こす。
壁のモニタには、リュウが入力した最後のデータ、メベト1/4の掲げる赤い三角に白い剣のマークとバーコードが大写しになった。
その巨大なマークが、部屋を赤く染めて、反政府組織の下っ端が、スプレーであちこちの壁に残していくいたずら描きを、連想させた。
「D値1/4でお尋ね者とはね、ばかなやつ。」
「D値は剥奪されてないんだね。」
ボッシュが、ぱちりと端末の蓋を閉じると、ふたたび部屋は元の色に戻った。
「――そういえば、」
リュウは、自分の分のグラスと水、冷蔵庫で見繕った食材を、テーブルの上に置き、その横にあぐらを組んだ。
「今日逃げたあの無印の女の子の件、報告せずに、見逃してすませてくれたんだね。ありがとう。」
「無印を捕まえても、たいした点数は稼げない。それだけだ。」
ボッシュは、邪気のない欠伸をして、端末を放り出し、ソファにしなやかな体を伸ばした。
「あぁ、ひょっとして、お前の顔見知りだったのか?」
「そうじゃないけど、身寄りのない無印があの年で捕まると、相当つらい施設に入れられるんだ。
でも、あぁしなきゃ、あの子は生きてけないのかもしれないから。」
「捕まれば矯正施設行き。――それでも、いまの俺の境遇よりは、ましだぜ、きっと。」
ボッシュは、そういってレンジャールームの低い天井を振り仰いだ。
「安心しろよ、ああいう雑魚は、全部お前にやるさ。
数にはなる、――そういうルールは、どうだ?
その代わり、大きな手柄になりそうな件は、必ず俺に知らせろよ?
お前の腕じゃ、解決できないし、どうせ、手に余るぜ、
パートナーでいるわずかの間の交換条件なら、お前にとっても、そう悪くないよな。」
今日のボッシュの戦闘を見たあとでは、すぐにこの街を出るというボッシュの言葉は、真実味を帯びていた。
それには答えず、手柄を立ててすぐにこの街を出て行くというパートナーから、リュウは視線を引き剥がし、飲み干したグラスをもって、立ち上がった。
「今度、パトロールのときにでも、下層街、案内するよ。あらためて、ようこそ。ま、見たとおりの街だけど。」



2.

翌朝のロッカールームで、ひとり着替えていたリュウは、部署の分かれた新米たちと挨拶を交し合った。
どの部署でも当然ながら、新米はまだ味噌っかす扱いで、それで余計にお互いの気持ちがわかる。
「あのエリート様、どんな感じだ?」 と、揶揄するようにジョンが聞いてきた。
「さぁ、まだわからないよ。」
「心の中じゃ俺たちのこと、馬鹿にしてない? あの目つき。」
太り気味で背の低いマックスが、ぴったりしたセーターに悪戦苦闘しながら、話を向ける。
「そうかな。…どちらかというと、下層のこと、わかってないだけみたいだけど。」
作品名:EXIT 作家名:十 夜