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「そりゃあ、な。俺だってハイディーならさ……、」 いつもの愚痴が始まったので、ジョンとリュウは、さっさと着替えを終えることに決めこんだ。
「リュウ、今日はどこを担当なんだ?」
「西側、第7採掘所まで降りて、戻ってくるルート。昨日、途中の倉庫に大型の野良ディクが出たんだ。」
リュウは、ロッカーをばたんと閉める。「それで、念のため、今日は下まで見に行くことになった。」
「俺なんか、今日は、交通整理だ。せっかくレンジャーになったのに、交通整理じゃ、派手な事件が起こりそうにない。」
「馬鹿いうな、そのほうがいいだろ。」 リュウが笑って、ジョンの肩を叩き、出て行こうとすると、後ろからマックスの声が届いた。
「そういえば、第7採掘所って、この前珍しい鉱石が、見つかったんじゃなかった?」
「あぁ、確か、貴重な原石が見つかったとかで、採掘の奴らが色めきたってたぜ。一個でも相当な値がつくとかで、噂になってる。」
「そうなんだ。あ、俺、もう行かないと。」
リュウは、ロッカールームの中からかき集めたありったけの武器を携帯し、ボッシュと合流した。
昨日の戦闘が、どうしても、目の中に残っていたからだ。
息を呑むような、鮮やかな角度。軌跡。いまのリュウには、まだ、ないものだった。
「行くぜ?」
「あぁ。」
そのまま2人は、下層の繁華街を抜け、重いゲートをくぐり抜けて、昨日ディクを倒した倉庫街へと向かう。
今日の目的地は、さらにその奥へ進み、エレベータを降りたところにある最下層近くの採掘抗にまで、降りていかなくてはならなかった。
下層にさえ初めて降りたというボッシュに配慮して、リュウは、採掘抗へ降りるエレベーターまでの通路を先導することにした。
底も天井も見えないほど深い円形の大広間に出て、ボッシュは、手すりから身を乗り出し、下を覗き込んでいる。
円形の広間の黒い岩肌に添うような形で、金属のチューブが何本も縦にはりついていて、チューブの中のエレベーターが、それぞれの採掘抗へと降りる最速のルートとなっている。
そのひとつ、”7”という数字の書かれたチューブに向かおうとしたとき、岩陰からふたつの人影が現れた。
「あの…レンジャーさん、ですね?」
見ると、採掘抗でよく見かける暗色の作業服を着た若い母親が、小さな手を引いて、リュウのところへ駆け寄ってくるところだった。
リュウは目を丸くした。手を引かれているのは、間違いなく、昨日のあの子だ。
「どうかしましたか?」
「この子が、昨日ディクに襲われたとき、レンジャーさんに助けていただいたと聞いたんです。」
「あれは、相棒が――。」
頭から足まで全部昨日と同じ格好の少女は、やっぱり一言も口をきかず、ただ、母親のズボンにしがみついていた。
リュウは、少女にむかって、にっこりした。
「任務ですから、気にしないで。」
「助けてくれて、ありがとうございました。」
すすにまみれた母親の手袋が、少女の頭に乗せられても、少女はこげ茶色の瞳で頑なにリュウを見ているだけだった。
気が晴れたのか、若い母親は少女を連れて、7番のエレベーターに向かい、扉の前で振り返って、会釈を返す。
いつの間にか、リュウの隣に、ボッシュが立っている。
「へぇ、母親がいたのか……。」
「そうだね。ボッシュは? どうだったの?」
「は? いないさ。」
「そっか、俺もだ。」
リュウが笑いかけると、ボッシュがぷい、と顔をそらす。
リュウは、初めて、ボッシュのそんな表情を見た気がした。
底が深いぶん、エレベーターが上がって来るのにも、長い時間がかかっている。
やっと着いたエレベータに入る親子につづいて、閉まりかけた扉にリュウが飛び込み、つづいてゆっくりとボッシュが同じ箱の中に乗り込んだ。




ごとん、と重い音を立てて、数メートル四方の金属のエレベータが、下降し始めた。
ボッシュは、エレベータの右奥にもたれかかって腕を組み、その反対の左奥にさっきの親子が所在なげに立っている。
扉のわきに立ったリュウは、扉の真ん中にはめ込まれた2センチくらいのはばの細長いガラスに目をやって、そこから外のトンネルに灯されたオレンジ色の明かりが、断続的に射しこんでいるのを見ていた。
不自然な沈黙が狭い箱の中に満ちて、ただでさえ、最下層のよどんだ空気の中を降りていく息苦しさを、加速しているような気がする。
リュウが、少し心配になり、母親の隣で赤黒いエレベータの隅に縮こまっていた少女の方を振り向くと、その反対側でそっぽを向いている相棒の姿も同時に目に飛び込んできた。
そのとき、何の前触れもなく、がくん、と大きく揺れたかと思うと、エレベータが突然止まり、すぐにすべての明かりが消えた。
リュウは、足もとをすくわれて、姿勢を崩しそうになったが、壁に手をついて持ち直した。
真っ暗な箱の中で、やがて潜めていた息を吐き出すように、リュウが声を出した。
「ボッシュ!」
「大きな声を出すな。ここにいる。」
いつの間にそばに来たのか、リュウの右手から静めた声が届いた。
よく見ると、ゴーグルにつけた蛍光マークが淡い光を吐き出して、箱の中にいる人間の位置を知らせている。
「おふたりとも無事ですか?」
「は、はい……。」
さっきと変わらない位置から、か細い声がしたので、リュウは胸をなでおろす。
ぱちり、と傍らのボッシュが、携帯用ライトを灯すと、まっすぐな鋭い光が、隅にちぢこまったままの親子を一瞬照らし出し、リュウの横にある壁に向けられた。
「どけよ。」
リュウが、身をずらすと、左手にもったライトで操作パネルを照らしたボッシュが、すべてのボタンを試し押していた。
「警報ランプは?」
「見ればわかるだろ。これは、どうなってる? 主電源でも落ちたってのか?」
「聞きたくないだろうけど、ここじゃ、そう珍しいことでもないよ。」
リュウも腰のパウチから自分のライトを取り出すと、パネルのほうはボッシュに任せて、手の光を灯して奥の二人のところへと進んだ。
「だいじょうぶですか? 何とかしますから。」
「ええ。」
少女の茶色の瞳がライトに照らされて、せいいっぱい見開いているようすが見て取れたので、リュウは、手の中のライトを、少女に差し出した。
「これ、持ってて。あちこち、好きなところを照らしてていいよ。」
少女が手をのばさないので、リュウは身をかがめて、少女の右手に細長いライトを握らせた。
ライトから細長く伸びた白い光が、ぴかり、とリュウの顔を照らした。
「オイ、手を貸せよ、リュウ!」
「わかった。」
相棒の声に応えて、リュウは、エレベータの操作パネルの方へ取って返した。
驚いたことに、ボッシュは、細長いドライバーを器用に使って、操作パネルの蓋をはずしてしまっていた。
「このライトをお前が持って、手元を照らせ。」
「直りそう……?」
「主電源が原因じゃ、ここから動かすことはできないさ、でも、こっちのコンピュータの電源で接続すれば、連絡はとれるかもな。」
ボッシュは、いつも持っているコンピュータにつながった導線を、パネルの奥の配線へとつなぎ、キーボードを叩き始めた。
何度か打ち間違い、いらいらして革の手袋の指先に噛み付くと、無理矢理引き剥がした。
作品名:EXIT 作家名:十 夜