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【APH】望む落陽 まだ見ぬ夜明け

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面白がった皇帝が子どもに声を掛ける。子どもは言葉に詰まり、先程の勢いはどこに行ったのか黙り込んだ。それに居並んだ騎士たちの間から、忍び笑いが波を打つように漏れる。子どもは機嫌を損ねたかのように頬を小さく膨らませた。それに総長は小さく溜息を吐き、名乗るように促すと、子どもは膨れ面のまま嫌々、口を開いた。

「…マリア」

「もう少し、大きな声で頼むよ」
皇帝の言葉に、子どもは自棄になったように口を開く。

「マリア、だ!!可笑しければ笑え!!」

それが、神聖ローマとマリアの出会いだった。





 マリアの正しい名前は、聖母マリア病院修道会。最近、騎士見習いになったばかりだという。

「マリア」
「何だよ」

子供同士、気が合うだろうと余計な皇帝陛下の気遣いのもと二人きりにされた教会の庭。ぷらぷらと前を歩くマリアに神聖ローマは声を掛けた。
「どうして、お前は国になりたいんだ?」
「そりゃ、お前、生まれたからには名を残したいじゃねぇか」
「…それだけか?」
神聖ローマの言葉に赤い目を瞬かせ、マリアはずかずかと神聖ローマの元へと歩み寄った。
「…オレはどういう訳か、領土も民もないまま生まれた。…ここに集っているのは、行く場所を失くしてここに辿り着いた者たちばかりだ。そして、名も無きオレに奴らは名を与え、オレに存在の意味をくれた。だから、オレは奴らに報いらなきゃならねぇ」
「…それで、国なりたい、か?」
「おう。どうやったら、なれるんだ?」
国となれば、苦労が苦悩が、どうしようもないジレンマが付き纏う。追えども、愛しいと想う者は腕をすり抜け逃げてゆく。守りたいと思う。守るために手に入れなければと思う。でも、それをあの子は拒むのだ。悲しそうな顔をして。

 そして、この身は教皇と皇帝の終わりの見えない繰り返される政争と内紛に、徐々に疲弊している。

「…国に」
自分はどうして国なったのだろう。民族を率い、永住の地を求め北上したゲルマンは既に亡く、その落とし子だという自分は何なのだろう?…果たして、自分は最初から領土を、民を持った国であったろうか?領土は諸邦の選帝候が支配している。その上にただいるだけの自分は、果たして「国」であるのか。
「神聖ローマ?」
赤い目が自分を見つめる。神聖ローマは視線を伏せた。
「…国になって、お前はどうするんだ?」