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21 もう一つの窓の運命Ⅰ

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ソファから立ち上がった、その生徒の父兄は―!

「クリームヒルト!…何故あなたが…まさか!」

その目の前の想い人の変わらぬ美しい姿と…、かの人に生き写しの自分の教え子の面差しが重なる。

「あなたが…、ユリウスの…、アーレンスマイヤ夫人…」

全てを理解したヘルマンが、茫然と呟く。

「ごめんなさい…ヘルマン。あなたを…ずっとだましていて…」

アーレンスマイヤ夫人―、クリームヒルトと名乗っていたかつての恋人、レナーテ・フォン・アーレンスマイヤが顔を伏せ、肩を震わせる。

「…やっと会えた。…そしてこうして再び貴女の手を取る事が出来た」

レナーテに近づき、そっと彼女の両手を取り、白い手の甲に口づけを落とす。

「ヘルマン…」

そんなヘルマンにレナーテの―、ユリウスに瓜二つの美しい碧の瞳が潤む。

「…済まない。貴女がこんなに朝早くに学校を訪ねて来たという事は…君の息子…ユリウスに何かあったのかい?」
―さ、かけて。

自分の名前を呼んだレナーテの声に、ハッと我に返ったヘルマンは再び教師の顔に戻り、
もう一度ソファにかけるよう促すと、その理知的な灰色の瞳を彼女に向けた。

その瞳の冷静な輝きに、レナーテもハッと我に返る。

「私のユリウスが…、ユリウスが3日前から家に戻ってこないのです」
―今までこんな事…一度もなかったのに。

「ユリウスが?…そう言えばここ3日程無断欠席をしていたが…」
ヴィルクリヒがこの数日を振り返る。

「家族は…マリア・バルバラさんやアネロッテさんは‟年頃の男の子だもの。誰かの家でバカをやっているのでしょう”と言いますが…あの子の身に…もしものことがあったら…」
とうとうレナーテは堪えきれずに溢れ出た涙をハンカチで押さえ始めた。

「確かに…担当教官としては…無断欠席はけしからんが…、彼も年頃の少年だし…、マリア・バルバラさんのいう通りなのだろう。ね?クリーム…、あ、レナーテ と呼んでもいいかな?」
少し戸惑い気味に名前を呼んでもいいかと尋ねられたレナーテが顔をあげ、泣きはらした目をしながら―、それでも無言でコクリとヘルマンに向かって頷いた。

「…レナーテ。きっと彼をことさらに可愛がっている上級生…ダーヴィトあたりとつるんで、街に繰り出しているのかもしれない。心配だったら彼や、仲のいい同級生のイザークにでも、ユリウスのことを訊いてみよう」
―だから泣くのをやめて…。また…何かわかったらアーレンスマイヤ家に連絡するから。

そう言ってヘルマンはレナーテを優しく抱きしめた。