24 目覚め
女中がヴェーラとドクターを連れて戻って来た。
記憶の混濁にパニックを起こし酷く興奮したユリウスにドクターは鎮静剤を打ち、再びユリウスは昏々と眠りに落ちた。
「では、この女性は…自分の名前も…住まいも…そして今がいつなのかもわからなくなっていた…という事か」
その時の状況をナースから聞いたドクターが確認する。
「それから‟Nein゛と仰ってましたわ。この方」
「でもあなたの…ロシア語の質問には反応をしていたのよね?」
ヴェーラがナースに尋ねた。
「ええ。…答えられないようでしたが、私の問いは理解しているようでしたわ」
「先生…」
ヴェーラがその理知的な面差しに不安げな表情を浮かべ、医師の言葉を待つ。
「どうやら…頭を打ったことにより…一時的な記憶の混濁が起きているようだね」
「そんな―!先生?この子はどうなりますの?」
「それは―何とも言えませんな。恐らく一時的なものかとは思いますが、記憶が戻るのが明日なのか…それとも半月後なのか…あるいは何年か後になるのか…」
そう言って医師は言葉を濁すとユリウスの身を慮ってつらそうな顔でヴェーラから目を逸らした。
作品名:24 目覚め 作家名:orangelatte