32 Dinner1~癒しの乙女
「お待たせ」
週に一,二度の二人きりの晩餐。
レオニードは、いつもこのダイニングの扉を開けてユリアを待っていた。
そして、「いや、私も今来たばかりだ」と言って少し微笑み彼女に着席を促す。
二杯目の食前酒を、ゆっくりと注ぎながら。
「どうした?」
扉の前に立ったまま長いテーブルを見つめ、一つ小さなため息を漏らすユリアをレオニードは訝し気に窺う。
「あのね・・・前から言おうか迷っていたんだけど・・・」
「なんだ?言ってみなさい」
居候の身分をわきまえてか、ここに来てから滅多に自分の意見や希望を口にしないユリアに、レオニードは少しもどかしさを感じるようになっていた。
自分ならば、この娘の希望は大概叶えてやれるだろうし、そうしてやりたいと心から思うようになっていたのだが、この娘ときたらドレスや宝飾品の類にはほぼ興味を示さず、食も細く贅沢も好まない。
―――いや、一つだけあったな・・・。
蜂蜜やジャムの類が好物のようで、目を輝かせてパンやブリヌイ、紅茶にはたっぷりと使っていた。
そんな、自分の周りに寄ってきた今までの人間たちの中には決して存在しないタイプの彼女がレオニードには新鮮でならず、一層愛おしく感じるようになっていた。
「席、もっとあなたの近くに座っていい?たった二人しかいないのに・・・長い机の両端にそれぞれ座っていただくなんて淋しいよ・・・ダメ?」
―――そんなことか・・・。
拍子抜けして、思わず片眉が吊り上がる。
と同時に、小首をかしげて自分を窺う少女がなんともいじらしく、レオニードはなぜか湧き起こった猛烈ないたずら心を抑えることができない。
「そうか・・・それは気づかなくてすまなかった。お詫びに、今日だけ特別に私の膝の上に乗せて食べさせてやってもいいが?甘えんぼのお嬢さん」
「な・・・何をいうの⁉ボ、ボクが言ってるのは・・・」
「冗談だ。」
―――ターニャ!
ユリアが真っ赤になりムキになる様子に、レオニードは笑い出したいのをなんとか堪えながら、給仕を呼んで彼女が座る位置にセッティングしなおさせた。
作品名:32 Dinner1~癒しの乙女 作家名:orangelatte