永遠にともに 1
「どうって言われても、僕には行くところなんて無いし、連邦には見つかりたく無いし…。今のところここに居るしか無いんですが。」
「ならばここに居たらいい。」
サラリと答えるシャアにアムロは更に戸惑う。
「でも…、貴方は僕を殺したかったんでしょう?だって僕はララァを…。」
それ以上は辛くて口に出せなかった。
シャアは少し考えるともう一度アムロに向き合う。
「確かにあの時はララァを殺し、私のプライドを傷つけた君を殺そうと思っていた。」
アムロの胸がズキリと痛む。
「しかし、ア・バオア・クーで君と剣を交え、共感を感じた時…ララァの声が聞こえた。ニュータイプは殺しあう道具では無いと…。ララァが君を許しているのに私が恨んでいるのはおかしいだろう?だからもう君を殺したいとは思っていない。」
「ララァ…」
アムロはシャアの瞳を見つめたまま呟く。
「ララァは不思議な人ですね。突然僕の中に飛び込んで来て心をかき乱して…でも捕まえようとするとスルリと消えてしまう。そして気まぐれに手を差し伸べる。もしかしたらララァが僕を貴方の元に導いたのかな…ララァも僕を貴方の側に置きたがっていた…。」
「ララァが?」
「はい、ソロモンの戦場で貴方とララァと会った時…貴方は僕に同志になれと誘ったでしょう?その時ララァも僕に一緒に来るように言っていました。」
アムロのその言葉にシャアはその時を思い出す。
『あの時、私はアムロ・レイを同志にしたいと思った。ララァと同じように側に置きたかった。ーーーーララァと同じように?』
シャアはアムロの琥珀色の瞳を見つめるとその頬に手を添える。
『そうだ。私はアムロ・レイを共に戦う同志として、そしてララァと同じように愛する者として側に置きたいのだ…。』
シャアの整った綺麗な顔が目の前に迫り、アムロの顔に熱が集まる。そして心臓は高鳴り、息が乱れる。
「あ…、あの…シャア?」
シャアはそんなアムロの頬を両手で包み込み、その唇に己の唇を重ねた。
初めは啄ばむ様に優しく、そして息継ぎをしようと開いた隙間から舌を滑り込ませアムロの舌を搦め捕るとそのまま深く口付けを交わす。
アムロは突然の事に驚き、身動きができずに為すがままになってしまう。
唇が離れるとアムロは乱れる息の中絞り出す様に言う。
「ど…して?僕は…ララァの…代わり…なの?」
アムロのその言葉にシャアは首を横に振る。
「私はララァと君、両方を手に入れたかった。
だから君がララァの代わりなどであるはずがない。私は〈君〉が欲しい。」
その言葉にアムロの琥珀色の瞳から涙が溢れる。
「君は自分がララァの代わりでは嫌だと思うくらいには私を好いてくれているのか?」
「え…?あ…。分から…ない。でも、貴方が会いに来てくれるのを…待ってる自分がいた…。それに貴方の胸の中を心地良いと思ってしまった…。」
アムロの瞳から涙が次々と溢れ出す。
「あの時、深く沈んだ僕の意識を…貴方の僕を呼ぶ声が呼び覚した…。貴方の声だけが…僕に届いたんだ。」
ーーー半冷凍睡眠から解放された時、朧げだった僕の意識を金色に輝く光が照らし出した。そして僕の名を呼ぶ声に導かれた…。
「昔も…どんなに乱戦になっても貴方の気配だけは直ぐに分かった。貴方は敵であり、目標であり、憧れだった…」
アムロはシャアのその軍人らしい厚い胸に頬を寄せる。
「僕は…ここに居て…いい?」
シャアはアムロを抱き締めるとその耳元で囁く。
「勿論だ。君に側にいて欲しい。私は君が好きなのだ」
シャアのその言葉にアムロは目を見開くとそっと呟く。
「多分…僕も貴方の事が好きなんだと…思います。」
2人はお互いの瞳を見つめるとゆっくりと顔を近付け口付けを交わす。
朝陽の降りそそぐベンチで2人は暫く抱き締め合った。
そのまま意識を失ったアムロを腕に抱き、シャアが屋敷の中へと戻って来た。
「アムロ君?!」
驚いたアーネストが駆け寄って来る。
「眠っているだけだ。心配ない。ベッドまで運ぼう。」
アムロを大切そうに抱えると、シャアはベッドへとアムロの体を横たえる。
その光景にアーネストの表情が歪む。
シャアはアーネストに見える様にアムロの唇にキスをする。
「何を!?」
アーネストはシャアの腕を掴みアムロから引き離す。
「アムロと私はこう言う関係だ。アムロも受け入れてくれた。君には伝えておくべきだと思ったのだが違ったか?」
アーネストはぐっと息を止めるとシャアの腕を離した。
「そんな!僕はアムロ君を愛している!彼は僕の物だ!」
「それはアムロも納得しているのか?」
「それは…」
アーネストは言葉を詰まらせる。
「君がアムロを大切にしてくれているのは分かっている。アムロも君にはとても感謝している。しかし、恋愛感情は持っていないだろう?」
アーネストは拳をきつく握り締め目を閉じる。
「私は人間として、君の行動は賛称に値すると思っている。自らの危険を顧みずアムロを救ってくれた事を心から感謝する。」
シャアの言葉に目を見開きそのアイスブルーの瞳を見つめる。
「できる事ならば君にはこれからもアムロを支えて欲しい。勝手な事を言っている事は分かっている。しかし、私もアムロを手放す事は出来ないのだ。」
アーネストは一度大きく息を吐く。
「僕もそんな簡単には諦められない…、彼の為に全てを捨てても構わないと思う程愛してる。」
シャアの青い瞳がアーネストを射抜く。その視線に少し腰が引ける。
「…けれどアムロ君の気持ちも大事にしたい。僕は僕なりに彼を愛していきたい。それならば良いですか?」
シャアからのプレッシャーに押し潰されそうになりながらもそれだけは譲れなかった。
「良かろう…。」
シャアは少し笑みを浮かべると部屋を出て行った。
アーネストはシャアが部屋を出て行くのを見送るとその場に崩れ落ちた。
「はぁ…なんだよ。あの迫力は…完敗じゃないか。何だかんだ言ったってアムロ君を譲る気なんて無いくせに…」
アーネストは眠るアムロを見つめると、大きく溜め息を吐いて頭を項垂れる。
「アムロ君…。君をここに連れてきたのは正解だったのだろうか…君はとんでもない人に捕まってしまったのではないか…?」
穏やかな寝息を立てるアムロを複雑な気持ちで見つめ天を仰いだ。
その日からシャアは余程の任務がない限り、毎日屋敷帰って来るようになった。
「最近はあまり忙しくないんですか?」
共に食事をしながらアムロが聞く。
「忙しくない事はないが君に会いたいのでな。多少無理はしてでも帰ることにしている。」
「っえ?あ、そう…なんですか…」
アムロは顔を真っ赤にして固まる。
そんなアムロの様子にシャアはクスクスと笑う。
「君は可愛いな。」
「なっ!!可愛いって…。貴方、目が悪いんですか?」
アムロの反応に更に笑いが込み上げる。
「笑いすぎです!」
機嫌を損ねたのかアムロはさっさと食事を終えるとリビングへと行ってしまう。
共に過ごす様になってアムロの色々な面が見えて来る。人見知りで自分から積極的に話し掛けはしないが話し掛ければそれに応えてくれる。
意外と気が強く、負けず嫌いでゲームをすると勝つまで勝負を挑んで来る。