永遠にともに 1
基本的に1人を好むが淋しがり屋でルシファを常に側に置いている。おそらく今もリビングの床でルシファの毛に顔を埋めているはずだ。
リビングへ行くと案の定ルシファに体を預けて蹲っている。
「アムロ、そろそろ機嫌を直してくれ」
アムロに話しかけるとアムロは顔を上げ外に視線を向けて呟く。
「誰か来ます。2人…、軍人です。敵意はありませんが…僕は席を外した方が良いですよね。」
アムロがいい終わるや否やインターフォンが鳴る。
モニターに映ったのは部下のアンディとリカルドだった。
「ああ、彼らならば大丈夫だ。ちょうど良い、これからの事もあるから君を紹介しよう。」
「えっ!!」
アムロが止める間も無くシャアは2人をリビングに招き入れた。
「大佐。勤務外に申し訳有りません。少々ご相談がありまして…。」
リビングに通された2人は大型犬に守られる様に床に座り込んでいる16、7歳くらいの少年に目を止める。
「大佐…あの少年は…。」
アムロも突然の事にどうして良いかわからずただ2人を見つめる。
「ああ。紹介しよう。アムロ・レイだ。アムロ。この2人は私の部下でこっちがアンディ、隣の髭のある方がリカルドだ。」
「「アムロ・レイ!?」」
2人が驚いて同時に叫ぶ。
アムロも目を見開いて固まる。
「大佐!アムロ・レイってまさか、あのガンダムのパイロットのアムロ・レイですか!?」
アンディがシャアに向かって叫ぶ。
「そうだ。そのアムロ・レイだ」
「こんな子供が!?、それに何だって此処にアムロ・レイが居るんですか!?」
動揺する三人を他所に余裕の笑みを浮かべるシャアにアムロがようやく口を開く。
「シャア…。どういうことだ?僕の存在が知れたら貴方の立場が悪くなるだろう?…それに僕は子供じゃない!」
アンディの一言が気に障ったのかボソリと文句も付け加える。
「ははは。すまない。アンディ、アムロはこう見えても今年19歳だ。少々若く見えるのは事情があってな。」
「“こう見えても”は余分だ!」
「おい!お前大佐に向かってなんて言葉使いだ!」
「アンディ、アムロやめろ。とりあえずこちらへ」
揉め始める2人の間に入るとシャアはアンディとリカルドをソファに座るように促した。
アムロもシャアに促され2人に向かい合うようにシャアの隣に座る。アムロの動揺を察知したのかルシファがアムロの膝に寄り添った。
アムロはルシファの優しさに微笑むとそっとその頭を撫ぜる。
「アンディ、リカルド。とりあえずアムロが此処にいる経緯から話そう。」
シャアが2人に今までに経緯を説明すると2人は複雑な表情でアムロ見つめる。
「信じられない…。そんな事があるんですか…?連邦にとっては英雄でしょう?やっぱり連邦は腐ってやがる。」
リカルドが吐き捨てるように言う。
それを聞いていたアンディはアムロの境遇に同情は感じるが、ソロモンでの戦闘でガンダムによって多くの仲間を失っている身としては何とも言い難い気持ちもあった。
アンディの様子にアムロがシャアに目を向ける。
「シャア…、どう言うつもりだ?ジオンの兵士にとって僕は仲間を殺した仇だ。みんなが貴方のように受け入れる事など出来ない。」
「そうだな。決してお互いに個人的な憎しみがあった訳ではないとしても、敵として相対した以上は殺しあう。それが戦場だ。君が言う通り遺恨は残る。アンディはソロモン戦に参加しているからな、思うところもあるだろう。しかし君とてソロモンでは仲間を失っているだろう?」
その言葉にアムロはビグザムに特攻を仕掛け宇宙に散ったスレッガーを思い出す。
「…スレッガーさん…」
アムロは目を伏せ、膝に置いた手を握りしめる。
「すまない。悲しい事を思い出させたな。」
「いえ…」
シャアはそっとアムロの肩を抱く。
それを見てアンディとリカルドがギョッとする。
「アンディ。お前の気持ちは分かるがここは私に免じてアムロを受け入れてはくれないか?」
アンディは2人の様子に動揺しつつもシャアにそこまで言われては受け入れざるを得ない。
「…わかりました。」
「ところで私に相談とは何だ?」
「ああ!そうでした。」
あまりの衝撃に本来の目的を忘れるところだった。
「実は若いパイロット達の訓練の事なんですが…。」
「ああ、お前達が教官をしている新人たちか。」
「はい。ちょっと困ってまして。」
アンディがリカルドと目を合わせるとはぁ〜と揃って大きな溜め息を吐く。
「なんて言いますか、基本的にみんなお坊ちゃんお嬢ちゃんなんですよ。ハマーン様はまぁ多少実戦を経験していますから良いですけど、他は実戦経験も無い、根性も無い、でもプライドはある。そんなンなんでシミュレーターでちょっと良い戦果を挙げると天狗になっちまって訓練をまともに受けないんですよ!あんなんじゃ実戦に出たら一瞬であの世行きです!」
アンディは一気に喋ると、ぜいぜいと肩で息をする。
「それで一度模擬戦で大佐にボロクソに叩いて貰って、奴らのくだらないプライドを打ち砕いてもらいたいんです。」
「ふむ…」
シャアは口元に手を当て少し考える。
「私が模擬戦に出るのは構わないが私では彼らも“やられるのは仕方ない”くらいにしか思わないのじゃないか?」
「それはそうですが…一度コテンパンに叩きのめさないと目が覚めないと思うんです!」
リカルドも拳を握りしめて訴える。
それを聞き、シャアは少し考えると隣のアムロを見つめる。
そしてふふんと不敵な笑みを浮かべる。
その笑みにアムロは嫌な予感に身を引く。
「シャア…、貴方変な事考えてないか!?」
その場を逃げようとするアムロの腕を掴むと目の前の2人に微笑む。
「アムロに相手をさせよう。」
「「「ええ!?」」」
シャア以外の三人が声を揃えて叫ぶ。
「もちろん名は伏せて訓練生として相手をさせる。彼らも年下の子供にやられたとあっては流石に考えを改めるだろう?」
「誰が子供だ!!」
『『ツッコムのはそこか?』』
アンディとリカルドの心の声が重なる。
「そうだな。名前はアラン・マス 。年は17歳としよう。」
「ちょっ!何、勝手に決めてるんですか!それにモビルスーツなんてもう何年も乗っていないし正直、体力も自信が無い!無理ですよ!」
焦るアムロを気にもせず話を進める。
「そうだな。少しシミュレーターで練習をするか。ジオンの機体には乗ったことが無いだろうしな。時間もそうだな…、大分回復したとは言え、今の君の体力では15分が限界だな。」
「ちょっと!シャア!僕の話を聞いてます?て、言うか何で17歳!?」
「聞いているとも。だから段取りを考えている。それに君の今の見た目で19歳と言う方が無理がある。」
シャアは己の胸ぐらを掴んで訴えるアムロにしれっと答える。
シャアに言っても無駄だと諦めたアムロが前の2人に助けを求めるように目を向けるが、2人とも今のシャアに何を言っても無駄だと言わんばかりに首を横に振る。
結局シャアに押し切られたアムロは訓練生達の模擬戦の相手をする事になってしまった。
アムロはジオンの制服に身を包み、アンディとリカルドに連れられアクシズ基地内のシミュレーションルームへと向かって歩く。
「あの…、本当にやるんですか?正直自信無いんですけど…。」