永遠にともに 1
アムロは溜め息を吐きながらアンディに再確認する。
「アム…、アラン。良い加減諦めろ。大佐が言うこと聞く訳ないだろ?」
「あの人本当に何考えてるんだろう…。それに僕こんなとこ歩いてて大丈夫なんですか?」
いくらアクシズの人間が1年戦争に殆ど参加していないとはいえ、自分がジオン兵にとって敵だった事に変わりはない。
「まぁ、大丈夫だろ?まさかこんなトコに白い悪魔がいるなんて誰も思わんよ。それもこんな可愛い子が例の悪魔だなんて気が付きゃしないよ。」
「誰が可愛い子ですか!?」
膨れるアムロを見て、『そう言うトコだよ』と隣を歩くリカルドは思うが更に膨れそうなので口に出さずに笑って誤魔化す。
『本当にこの可愛い坊やがあの白い悪魔なのか?』
未だに信じられずアムロをじぃと見つめる。
「なんですか?リカルドさん。」
視線に気づいたアムロがリカルドを見上げる。
小柄なアムロに上目遣いに見つめられて思わずドキリとする。
「いや。なんだ、そのアランは大佐とは仲が良いのか?」
考えていた事を言うわけにもいかず適当な事を聞いてみる。
しかしその質問にアムロが予想外の反応を見せた。
「なっ、仲良いってそんな!えっとっ」
アムロは顔を真っ赤にして動揺する。
シャアの性癖を知る2人はその反応に『ああ…
』とシャアとアムロの仲を察する。
『大佐…。確かに可愛いが、まさかかつての好敵手を相手に…。』
リカルドとアンディは目を合わせるとポンとアムロの肩を叩いて励ます。
「何?2人とも何ですか?」
両肩を2人に叩かれ、アムロはよく分からず首を傾げる。
「いや、今からシミュレーション頑張ろうな」
頭にクエスチョンマークを飛ばしたアムロを間に挟み、2人はシミュレーションルームへと歩みを進めた。
「こんな感じで大体操作方法はわかるか?」
アンディはシミュレータに座るアムロに一通り操作方法説明する。
「はい。多分大丈夫だと思います。」
「それじゃ、始めるぞ。機体はリックドム。敵は5機。時間制限は10分な。」
「了解です。」
シミュレータの扉を閉めるとアンディとリカルドはモニタールームへ移動する。するといつの間に来たのかシャアがモニターの前に立っていた。
「5機では少なく無いか?」
「え?でもかなりブランクもあるようですしジオンの機体は初めてでしょう?」
リカルドが答えるとシャアは「まぁ良かろう」
と不敵な笑みを浮かべてモニターに視線を向ける。
アムロは久しぶりのコックピットにシミュレータとはいえ少し緊張する。
ふぅと深呼吸をすると操縦桿を握りしめる。
「リックドム。行きます!」
アムロの掛け声と共にシミュレータが起動する。
アムロは意識を広げ架空の戦場の状況を把握する。
『右舷に敵2機、後方に1機、左舷に2機…。
まず、左舷の手前の機体が攻撃してくる…。』
アムロは敵機が攻撃のモーションに入る前に回避行動をとり、それと共に右舷の2機をビームライフルの連射で撃墜する。
その後急上昇し、後方の敵機を振り向きざま撃墜。
左舷の2機からの攻撃を最小限の動きで避けると先ほど撃墜した機体のかけらを盾にして1機を仕留める。
そしてもう一機は懐に飛び込むとビールサーベルでメインカメラとライフルを握る腕を切り落とす。そのまま流れる動きでバルカン砲を撃ち込み爆風からの逃げるように離脱する。
モニタールームのモニターに「clear」の文字が表示され所要時間を測るカウンターがストップする。その数字にアンディとリカルドが固まった。
「1分…003秒」
「え?もうclear??」
「5機を1分!?」
シャアは動揺する2人の隣で不敵な笑みを浮かべた。
「だから5機では少ないと言っただろう?」
『ブランクなどとよく言えたものだ。流石はアムロ・レイ。それでこそ私のライバルだ!』
シャアはモニタールームからアムロに通信をする。
「アムロ。ジオンの機体はどうだ?」
「あれ?シャア?来てたんですか。ジオンの機体?そうですね。連邦のジムとかに比べると格段に反応が良い。ただライフルの軌道が少し右にズレるかな。二発目からは修正したから問題ないですけど。あと、急上昇の時少しカブる感じがあります本機でも同様ならバルブの調整が必要かも。けどその後の伸びは凄くいいです!!」
「そうか。たかだか1分のシミュレーション中に敵を撃墜しながら機体性能も確認していたか。」
「そんな大袈裟なものじゃないよ。それよりもう一回やってもいい?他にも急降下時のGとかサーベルの出力とかもうちょっと確認したいんだ。」
アムロは水を得た魚の様に生き生きと機体のチェックを始める。
「ああ、君はメカニックも出来るんだったな。」
「うーん。ホワイトベースは人手不足だったから整備も自分でやらなきゃいけなくて…」
あまりのテンションにシャアに対する敬語も消え去り夢中になっている。
リカルドはシミュレータのレベルをMAXまで上げ、敵機も12機に増やして2回目のシミュレーションを始める。しかし結果は変わらず、アムロは12機を3分で沈めた。
数回続けた後、シャアはモニター内のアムロの顔色の悪さに終了を告げるとシミュレータの元へ移動する。
扉を開け、コックピットに入るとアムロが荒い息をしてぐったりしていた。
「アムロ、少し張り切りすぎだ。まだ体力は戻っていないのだから無理をするな。」
「うん…。ちょっと疲れた。」
アムロはフラリと立ち上がるとシャアに支えられコックピットから出る。
モニタールームに移動してリカルドからドリンクを受け取ると一気に飲み干して椅子に座り込む。
「はぁ、疲れた…情けないなぁ。前はもっと早く反応出来たのに。やっぱり勘が鈍ってるなぁ。」
アムロの呟きにアンディとリカルドが「はぁ!?あれでか!?」と叫ぶ。
「そうだな。昔の君なら3分でリックドム12機と戦艦2隻を撃破出来た。」
さらりと言うシャアに2人はギョッとする。
「しかしアムロ。模擬戦で秒殺はダメだぞ。訓練生達が状況もわからん内に終わってしまっては意味が無い。」
「あ!」と考えていなかったと言うようにアムロが声を上げる。
シャアは溜め息をつくとアンディに模擬戦の参加人数を確認する。
「参加人数は7名です。」
「7名か…。せめて10分くらいはかけてやらんと理解出来んだろうな…」
「10分!?えー!そんなに掛けるんですか!?」
「そうだ。一人一人撃破の瞬間の恐怖と悔しさを味わって貰わねばな。」
「…ああ、そうですね。僕も貴方にやられた時の恐怖と悔しさは今でも忘れられません。次は絶対倒してやる!って思いました。」
アムロが拳を握りしめて気合いを入れている。
そんな2人の会話に『訓練生達の相手にアムロ・レイって…早まったか!?』アンディとリカルドはお互いに顔を見合わせ溜め息をつくと頭を抱える。
すると、モニタールームの扉が突然開いた。
「誰かいるの?今日は訓練の予定は入っていないはずだけど」
と若い女の声が入り口から聞こえてくる。
アムロが振り向くとそこには自分よりも年下と思われるピンク色の髪の女の子が立っていた。
「ハマーン」
シャアがその少女の名前を呼ぶ。
「シャア大佐!」
ハマーンと呼ばれた少女はシャアの元へと嬉しそうに駆け寄って来る。