永遠にともに 1
「どうしたんですか?シャア大佐がシミュレーションルームに来るなんて珍しい!」
ハマーンからシャアに対する好意のオーラが広がる。シャアもハマーンに優しい目を向け微笑む。
『ああ、分かり易いなぁ。シャアも満更でも無い顔しちゃって』
アムロはちょっとイラっとしながら二人を見つめる。
「ここに居るアランの訓練に付き合っていたんだ。」
シャアが言うとハマーンがアムロに目を向ける。
「見たこと無い顔ですね。新人の訓練生ですか?」
突然話を振られて戸惑いながらも敬礼をして自己紹介をする。
「ア、アラン・マスです。よろしくお願いします。」
「ハマーン・カーンです。アクシズの提督マハラジャ・カーンの娘です。」
ハマーンに握手を求められ答えようと手を握った瞬間2人の間に宇宙が広がった。
ララァの時のような包み込むようなものでは無く覆い尽くすような強烈な感覚にアムロは目を見開く。
それは目の前のハマーンも同様で、あまりの衝撃に2人ともその共感に飲み込まれてしまう。
『この子のニュータイプ能力は強い上に常に全開になっている!このままじゃこの子の精神が保たない!何でこんなに全開なんだ!』
アムロがハマーンの意識に入り込むと研究所での実験の様子が見える。自分にも覚えのある苦しい実験。精神や肉体に負荷を与え無理やり能力を引き出される。
『そうか!実験のせいでフルスロットルにされた能力が解放されたまま閉じれなくなってるんだ!なんとか閉じないとこの子が壊れてしまう!』
アムロは両手でハマーンの頬を包み込み、お互いの額を触れ合わせるとハマーンに語りかける。
「ハマーン様、僕の声が聞こえますか?」
「……っ」
「ハマーン様!」
「き、聞こえます。」
「良かった。今、ハマーン様のニュータイプ能力は全開の状態になってしまっています。このままだとハマーン様の精神が持ちません。なので閉じたいと思います。僕の言葉に耳を傾けてくれますか?」
「…わかりました。」
戸惑いながらもハマーンは答える。
「それじゃ、まず目を閉じて心の中に扉を思い描いて下さい。」
「扉?」
「そうです。能力を閉じる為の扉です。」
「…思い浮かべました。」
「はい。今、その扉は開いていますね?それをゆっくりと閉じて下さい。」
「…と…閉じました。でも、まだいっぱい溢れて来る!」
「そうですね。ハマーン様の力は大きいので幾つかに分けて閉じていきます。さぁ、次の扉を思い浮かべて。そしてゆっくり閉じて…。そう、上手です。次を…」
2人のその状況を周りの3人が固唾を飲んで見守る。
アンディとリカルドは何が起こっているのか分からない状態でただ呆然と2人を見つめていた。
シャアは過去にアムロとララァの共感を見た時と同様に外から2人の見ている景色を感じていた。
『ニュータイプ同士の共感か…やはり私はあの中には入れないのだな…』
やるせない思いを感じながらも2人を見守る。
「ハマーン様。さぁ、最後の扉です。その扉を閉じたら意識を外に向けて現実に戻りましょう。」
ハマーンは意識の中で最後の扉を閉じると、ふぅっと息を吐き、瞳を開く。
目の前のアムロも瞳を開き、互いにその瞳を見つめ合う。
そして、ハマーンは常に頭の中に響いていた周りの音が消えている事に気付く。
「ああ、頭の中が静かになった…。こんなのいつぶりだろう。」
アムロは微笑むと「良かった…」と呟く。
「能力を使う時はさっきの扉を一つずつ開いて解放して下さい。決して一気に開いてはいけません。急激な解放は精神に強烈な負荷をかけてしまいます。絶対にしないで!」
ハマーンの肩を掴み真剣な顔で訴える。
「わ、わかったわ。」
ハマーンの返事に安心するとアムロはズルりとそのまま崩れ落ちる。
「アラン!?」
ハマーンが驚いてアムロを支えようとするが支えきれずアムロに覆い被さられる状態で床に倒れこむ。
シャアやアンディ達が慌てて2人を抱きおこすがアムロはそのまま意識を失ってしまった。
「シャア大佐!!アランは大丈夫!?」
シャアはアムロをソファに横たえ、その様子を見る。
「大丈夫ですよ。疲れたのでしょう。気を失っているだけです。」
「そう…。」
ハマーンは心配気にアムロを見つめる。
「ねえ、シャア大佐。彼は何者なの?」
シャアは少し考えると表情を隠してハマーンに答える。
「新人の訓練生ですよ。少しニュータイプ能力を持っているようで、パイロットとしても申し分無いのですが、病み上がりでしてね。心配なので私が面倒を見ているのです。」
ハマーンはそれだけではない事を感じているがシャアのこれ以上の詮索を拒む様なプレッシャーにそれ以上聞くことが出来なかった。
数日後、訓練生達がとの模擬戦の日が来た。
訓練生達は模擬戦用のリックドムに乗り込みアクシズのすぐ横にある訓練空域で模擬戦を始める。
教官のアンディとリカルドが審判員として空域に待機しシャアはゲルググで監視官として全体を監視する。
訓練生達には模擬戦の対戦相手であるアムロについてはその場では姿を明かさず、実戦経験者だと説明して戦わせる。
アムロの乗ったザクが7機に囲まれた状態で戦闘が始まる。
「おいおい!教官達は俺たちを舐めてんのか?7対1なんて!いくら実戦経験者って言ったって勝負になんないだろ?」
「ホントだよな!俺、この間シミュレータで高得点取ったんだぜ!俺の腕を見せてやる!」
訓練生達は口々に悪態を吐く。
それを聞きながらアンディとリカルドはやれやれと溜め息を吐きながらシャアのゲルググを見つめる。
『大佐も案外スパルタだな。この後のあいつらの事を思うとちょっと可哀想になって来た』
訓練生の最初の一撃を開始合図として模擬戦が始まった。
アムロは始め訓練生の実力を観察する為ひたすら空域内を逃げる様に飛び回る。
訓練生達の動きを見ながら一番腕が立ちそうな人を後に残し、一機ずつ追い詰める様にして撃墜の恐怖を味合わせながら倒していく。訓練生達は初めの余裕は何処へやら、早い動きのアムロの機体に追いつく事も出来ず、逆にジリジリと追い詰められていく。
「クソ!どこに行きやがった!?」
モニターから姿を消したザクを探すが見当たらない。焦って前進しようとしたところに隕石の影から姿を現し突然目の前に現れたザクに動揺してライフルやバルカン砲を連射するが全て避けられ、焦った瞬間模擬弾をコックピットに受ける。
「うわぁぁ!」
『005号機 戦闘不能』
『007号機 戦闘不能』
『001号機 戦闘不能』
……
次々と訓練生達が撃墜されていく。
「あ〜あ。わかっちゃいたけど情けねぇなぁ。」
アンディが溜め息まじりに呟く。
「後何機残ってる?」
「後一機、003号機 だけだ」
「リカルド、003号機って誰だ?」
「えーっと。ええ!ハマーン様!?あれ?ハミルだったはずだが入れ替わってるぞ!」
「シャア大佐!!」
「アンディ。聞こえている。あれはハマーンか?」
「そうなんです!!いつの間にか入れ替わってて!どうしましょう!終了しますか?」
シャアはふふっと笑うと宇宙を駆る二機を見つめる。
「そのまま続けろ。ハマーンにニュータイプとの戦闘を教える良い機会だ。」
「大佐…知りませんよぉ」