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36 別れ

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― ミーチャ。じゃあ行ってくるね。リザさんのいう事をよく聞いて、いい子にしてるんだよ。

― ミーチャ、待ってるかな…。早く迎えに行ってあげよう。

― ミーチャ!!…アレク…セイ…。

「ミーチャ!!」

自分の叫び声で夢から醒める。

伸ばされた手は、空しく空を掴む。

「イゾルデ?気が付いて?」

その声にヴェーラがベッドに走り寄る。

「イゾルデじゃない…私の名前は…ユリア。勤めの帰りにミーチャを迎えに行く途中で…その途中で…」

― ドクン。。。

ユリウスの胸が大きく鼓動を打つ。

その鼓動に合わせて癒えかけの右腕の銃創がドクンと脈打つ。

「…今は…いつですか?ここは…どこですか?私のミーチャは?」

「イゾ…ユリア?あなた記憶を取り戻したのね。ミーチャというのは…誰なの?」

「ミーチャは…私の息子です。あの日…仕事の前に…いつものようにリザさんにミーチャを預けて…。迎えに行かないと…。ミーチャが待ってる!」

ふらふらと何かに取りつかれたようにユリウスがベッドから起き上がる。極度に追い詰められた精神状態に、碧の瞳が濃い緑色を帯びている。

「ユリア!」

寝間着のまま靴も履かずにふらふらと部屋を出ようとしたユリウスの身体を辛うじてヴェーラが抱きとめる。

「離して…。行かなきゃ!ミーチャが待ってる!!」

興奮して抱きとめた腕の中で暴れ泣き叫ぶユリアを必死で押さえながらヴェーラが叫ぶ。

「リューバ!」

部屋の外で控えていたリューバが疾風の如く二人の前に走り寄ると、彼女は暴れるユリウスの細い首筋に一閃の手刀を落とした。
たちどころにユリウスが落ちて倒れる。

「ありがとう…リューバ。― 助かったわ」

ホゥと息を吐き、ヴェーラが額の汗をぬぐう。

リューバは再びユリウスをベッドに寝かせると、

「あの娘…ユリアといったのですね…」

とポツリと呟いた。

作品名:36 別れ 作家名:orangelatte