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四畳半に、ちゃぶ台ひとつ

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「俺さ……昨日、メシ作って待ってたんだぜ。メインディッシュは、ササミとほうれん草のクリーム煮。まあ、お前の分は猫にやっちまったからいいけどさ」
 俯きながらぶつぶつ言っているサンジの前を、ゾロは恍惚に近い寝ぼけ眼で、ポケットに手を突っ込みフラフラ歩いている。白の、襟ぐりの開いた綿シャツにスカジャンを羽織り、キングオブごろつきを体現したような格好をしているのに、サンジはそんなゾロの横顔を精悍だ、なんて思ってしまう。既に負けているのだ。
「別に、寂しかねえよ。お前がいなきゃいないで俺ァうまくやってんだ。米だってそろそろ無くなるしよォ、別に嫌なら帰ってこなくてもいいんだぜ。俺もせいせいすらァ」
 聞いているのかいないのか、振り返りもしないゾロの背中を上目遣いにじっと見つめて、サンジは立ち止まり、道端の小石を蹴った。
「なあ、お前、もう嫌なのかよ。帰ってきたくないのか? もう、俺と一緒にはいたくないのかよ」
 しゃがみこみ、草をプチプチと引き抜きながら、サンジは言った。警察署で見せたような威勢の良さはそこにはなく、まるで拗ねた子供のように声を押し殺している。
 それを聞いてぴた、と立ち止まり、ゾロはようやくサンジを振り返った。
「……嫌んなったなら、そう言えよ。食材、無駄になんだろ……」
 俯いて、蟻の行列を人差し指でつついて。金髪に隠れたサンジの顔からは、唇だけがツンと尖って小さく覗いている。
「なァ……」
 自分から呼びかけているくせに、サンジは顔を上げない。ゾロが自分をじっと見つめていることにだって、気付いてはいない。見るのが恐いのだ。
「おい」
 ゾロが、酒に焼けた低い声を上げても、サンジは俯いたままじっと蟻を観察するふりをしていた。サンジは多分、この街の誰よりも臆病だ。
 二人の間に沈黙が下りて、豆腐売りのラッパの音だけが遠く鳴り響いていた。暫くそのまま二人とも動かずに、声も発せずに、じっとしている。プー、パー、プー、パー、と、遠ざかっていくラッパの音。
 ――根競べに負けたのは、ゾロの方だった。もともと気の長い性質ではない。この寒いのに雪駄履きの足をパタパタと鳴らしてサンジの傍らに立つと、サンジのつむじを見下ろした。
「おい」
 再び、ゾロが呼びかけた。しかしサンジはまだ顔を上げない。もう、蟻は巣に戻ってしまった。道に迷った一匹だけが、ぽつんと砂糖の粒を抱えながらフラフラしている。
「……帰るぞ」
 思い切り眉を顰めながらではあったが、ゾロがそう言うと、サンジはようやく視線だけを上に向けた。青色の瞳がじっとゾロを見上げる。
 それはただ単に空の色だったけれども、ゾロはまるで責められているような気分になった。サンジが責めているのではない。どういうわけか、その澄んだ青色そのものに責めているように感じたのだ。眉間の皺を、これ以上ないくらいに深く刻む。
「……晩飯は、焼き魚がいい」
 ぱ、とサンジが顔を上げた。
「そうか! そうか……。何がいいかな。そうだ、帰りにスーパー寄ろうぜ、一緒にさ。確かブリが安いんだ。で、卵がお一人様1パックでさ」
 へへ、と笑いながら弾むように立ち上がると、今度はサンジが先に立って歩き始めた。ブンブンと腕を振り、長い足を真っ直ぐに伸ばして、背中をピンと張って。先ほどまでの拗ねっぷりがまるで嘘のように、踊るような足取りだ。
「味噌汁は大根がいいかな。お前、三つ葉入れたのが好きだろ? あとは、そうだ、茄子の漬物があるんだ。それに厚揚げが余ってるから甘辛い煮物にしてもいいな」
 三歩離れて後ろを歩きながら、ゾロはサンジの背中を見て目を閉じた。冬の陽光が瞼を穏やかに温めている。