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四畳半に、ちゃぶ台ひとつ

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3.5


「大丈夫だっつってんだろうが、面倒くせえ奴だ。てめえらがウロチョロしてたらいつまで経っても店が開けねえだろ!」
「しかしね、ゼフさん。この有様ですから……」
 この有様。
 ゲンさんは、途方に暮れたような表情で『レストラン・バラティエ』の店内を見回した。調味料はグチャグチャ。メニューはビリビリに破られ、椅子は叩き壊され、テーブルの足は折られ、テーブルクロスなどもはやどこに行ったのかすらわからない。
「問題ねえ。ただ野良犬が来て暴れて行きやがっただけだ。まったく何度言ったらわかるんだ」
「あんたねえ、これが野良犬の仕業なわけがないでしょう」
 というか既に、警察署にははっきりと、「バラティエでヤクザたちが暴れている」と、そう通報が入っていたのだ。目の前で踏ん反り返る老人の意図がまったく掴めず、ゲンさんの頭はこれ以上ないほどに混乱した。
「あ……サンジ君! サンジ君はどうしたんですか」
「あいつは今日は病欠だ」
「んなまさか」
「まさかなんてェことがあるか。いくらバカでも風邪はひく」
「あのねえ、ゼフさん……」
 思わずゲンさんがため息の塊を吐き出した、そのときだ。
「大変だ……大変だ、オヤジぃ……!」
 すっかり外れてしまった扉の向こうで、地面を這いずり、今にも息絶えそうな声を上げているのは誰であろう、ヨサクだ。顔面は血まみれ、服に隠れている身体にしてもそうだろう。とにかく、ひどい。
 つい1時間ほど前、この2人はバラティエにやって来て、破壊し尽くされた店内を見るや否や外に飛び出していったのだった。その後何があったのかは、ゼフにも薄々予想がつく。
「てめえ、また戻ってきやがったのか! 今日は厄日に違いねえな」
「オヤジ、サンジさん……サンジさんが……!」
 ああ面倒くせえ、と声をあげ、ゼフが右手で目を覆う。え、え、と、ゲンさんだけが合点がいかずキョロキョロしている有様だ。
「オヤジ、大変だ、サンジさんがえらい目にあっちまった! 俺じゃ力不足で……面目ねえ、面目ねえ」
「な、なんなんですか、ゼフさん。サンジ君に何かあったんですか。あんた、場合によったらこれは一大事件……」
 ガン!
 突如響いたのは、ゼフが義足の右足でテーブルを自ら叩き割った音だった。
「うるせえぞ! てめえら!」
 ぴたりと、思わず2人とも口を閉じる。ぎろりと睨みつけてくるゼフの目のせいで、身体の動きまでぴたりと止まった。
「いいか……この店のことは、心配いらねえ。どうってこっちゃねえ。サンジのことも、心配するな。大丈夫だ」
 静かにそう言ったゼフの言葉に、ヨサクもゲンさんも、思わず顔を見合わせる。
「大丈夫って……どこにそんな根拠が」
 ハァ、と、大きくため息を吐き、ゼフは崩れるようにして無事だった椅子に座り込んだ。ぐい、とコック帽を引っ張り、それで目を隠すかのようにする。
 ごくり、と、ヨサクもゲンさんも、息を飲んだ。
「サンジのことは……もう、飼い主が迎えに行ってる。俺たちがすることなんざ何もねえんだよ」
「は……飼い主?」
 ――あの日、雨の夜、血まみれの野良犬が、痩せこけた野良犬を背負って店にやって来たのだ。「5年したら引取りに来るから、それまで面倒見てくれ」と、いったいどこの世界でそんな理屈が通るというのだ。
 そんな理屈が通じるのは、野良犬たちの世界でのみだ。ゼフには手の出せない世界だ。
「わかったら、とっとと出て行きやがれ! 仕込みの邪魔だ!」
 一転、物凄い剣幕で怒鳴り散らしたゼフの勢いに押され、ぎゃあ、とヨサクどころかゲンさんまでもがテーブルの残骸に身を隠した。
「か、飼い主ってね、あんた、サンジ君は犬じゃないんですからね!」
 テーブルの影からゲンさんがぎゃんぎゃんと喚いたが、ゼフはそれをフン、と一笑に付した。
「あんなもん、犬と同じだ! 突然迷い込んできやがって、勝手にいついて、いつの間にか馴れていやがった。とんでもねえアホ犬だ」
「ゼフさん、あんた……」
「そのアホ犬を拾ってきた飼い主が、迎えに行ってるつってんだ。俺たちに出来ることなんぞ、何もねえだろうが!」
 ぽかんと口を開ける2人を一瞥し、ゼフはゆっくりと椅子から立ち上がった。瓦礫まみれの床を踏みつけながら厨房へと向かい、そしていつの間にか聞こえてきたのは、随分と暢気な包丁の音だった。