PEARL
PEARL Ⅰ
1.
「―――やっぱり見つからないな。はぁ……」
書類や分厚い本の山の中からアイオリアの諦めに近い声があがる。
カノンは一応声のする方向に顔を向けたが、同じく山と詰まれた本やら引き出しに入っていた物品が視界を遮っていたためアイオリアの姿は確認できなかった。
「こっちもないようだ。まったくどこに隠してくれたんだか。これをあとで片付けなくちゃいけないと思うとゾッとする。誰か知ってそうなヤツはいないのか?ミロとか」
「ミロ?そうだな。念のため聞いてみるか」
それでわかった時には今までの時間がまったくの無駄なのだと思うと少々悲しいかもしれないとアイオリアは思いつつ、聖闘士候補生たちと訓練中であろうミロに小宇宙に語りかけた。
『ミロ、悪いがちょっといいか?』
『……なんだ?』
『おまえ知らないか。伝承録とか保存されている書庫の場所とか鍵とか』
『書庫?……いや、俺は知らんが』
『アルデバランも知らなさそうか?』
『ちょっと待て……知らないそうだ』
『そうか。参ったな』
う~ん…と、そこでアイオリアは頭を抱えた。ムウには一番先に確認したが、ムウが言っていた場所には鍵もなかったし、書庫も備品倉庫になっていた。サガが偽教皇の間にどこかへ移転させたらしいということは確認できたのだが、肝心のサガがいないためにその貴重な文献の在り処が不明になってしまっているのだ。
アテナがぜひとも探して欲しいという、伝承録もどうやらそこに保管されているようである。
「知らないってか?」
カノンが声をかけてきたので「ああ」と短く答える。
『アイオリア』
『なんだ?』
ミロが再び小宇宙に語りかけてきたので返答するが、すぐに返事は返ってこなかった。
『おい、ミロ?』
『………あいつには聞いたか?』
『あいつ?』
そこでまた不自然な間が空く。あいつ?誰だろうかと考えているとようやくミロが言葉を返してきた。
『――――シャカだ。あいつなら知っているかもしれない』
どことなく歯切れの悪いミロを怪訝に思いながらも、シャカにはまだ尋ねていなかったアイオリアは一縷の希望を感じ、喜んだ。
『まだだ。そうか。あいつなら、もしかしたら知っているかもな……ありがとう、ミロ』
『―――ああ』
「よっしゃ!」
「なんだ、どこにあるのかわかったのか?」
ほんの少し明るい調子になったアイオリアにカノンもパッと顔を明るくする。
「いや……それはまだだけど」
「紛らわしいことをするな」
一気に疲労感を感じたカノンは盛大な溜息をついた。そんなカノンを無視してアイオリアはシャカに語りかけた。
『シャカ!おまえ書庫の場所とか鍵とか知ってるだろう?』
ほとんど決め付けたような言い方をいきなりしたアイオリアはしまった、と思いつつ開き直ってシャカの説教をくらう覚悟をした。
『―――突然、きみは何を言い出すんだね?』
わかりやすいぐらい不機嫌さを伺える声音に首を竦めながらもアイオリアは続けた。
『突然ですまない。伝承録とか大事な文献がサガによって場所を移されたようなんだ。おまえは知らないか?アテナがお探しになられているのだが』
書類の墓場化している広い執務室を仰ぎ見ながらアイオリアがシャカに尋ねると、しばらくの沈黙ののちに返事があった。
その返事を聞いたアイオリアは見る間に笑顔となり、ほっと息をついた。
「どうだった?」
カノンの声が聞こえ、アイオリアは明るい声で答える。
「喜んでくれ、ようやくこの山から抜け出せるぞ」
「お、やったな!!っと、うわっ!?」
バサバサっと書類の山が崩れ落ちる音にアイオリアは声を上げて笑った。