48 帰還
アレクセイの脱獄計画の実働部隊には、彼の旧友の顔も見られた。
ミハイル・カルナコフとフョードル・ズボフスキー。
古くからの友人であるミハイルには、モスクワへ発つ前にペテルスブルグへ残していく妻と生まれたばかりの息子の事を託していた。
そしてアレクセイをボリシェヴィキへと導き、モスクワを共に闘ったフョードル・ズボフスキーには、折に触れて妻の事、生まれたばかりの息子のことを話していた。
6年ぶりに再会したそんな二人に―、なかなか妻子の事を聞くことが出来ないでいるアレクセイに、
「アレクセイ、ユリアは―、お前の奥さんはこの6年間本当に頑張ったぞ。彼女は今サンクトペテルスブルグのボリシェヴィキ支部で働きながらミーチャを育てて、お前の帰りを待っている。この6年のユリアの頑張りを間近で見て来た俺は、お前をシベリアから生きてあいつの元へ帰すことが出来て…本当に嬉しい」
ミハイルはそう言うと、アレクセイの肩を抱いた。
そしてズボフスキーは
「アレクセイ―。6年前俺はお前から、‟生意気で勝気で泣き虫で向こう見ずで…でもそんなところも堪らなく可愛い…“と散々奥さんのノロケを聞かされたよなぁ。俺はペテルスブルグに戻って、支部でお前の奥さん―、ユリアに初めて会ったけど、お前、合ってるのは「可愛い」というところだけじゃないか!ユリアは、落ち着いて聡明で、母性に溢れた女らしい、とても素敵な女性だったぞ」
そう言って、アレクセイの脇腹を小突いた。
― ユリアは…、立派にサンクトペテルスブルグで子供と家庭を守り抜いているぞ。本当にお前に勿体ないぐらいの立派な女性だ。
盟友二人に手放しで妻を称賛され、アレクセイがついに感情を抑えきれず、声を殺し嗚咽を噛み殺しながら男泣きに暮れた。
そんな彼の背中にミハイルとフョードルが優しく手を置く。
何よりも暖かい、人の温もりだった。
作品名:48 帰還 作家名:orangelatte