50 小さな同志
「ムッター…、ごめんなさい…」
―どうしてだろう…。
トイレを失敗した口惜しさと恥ずかしさで、泣きべそをかくミーチャの嗚咽で揺れる小さな肩をユリウスはギュッと抱きしめる。
そしてミーチャの頭を、背中を優しく何度も撫でさすった。
「ムッター!ムッターのドレスが汚れちゃう!!」
そんなミーチャの言葉にも構わずユリウスは愛息を抱きしめ続ける。
「いいの…ミーチャ。…ムッターがこうしていたいの」
― ミーチャ、今まで…ムッターを支えてくれていてありがとうね。あなたがいなかったら、ムッターはファーターのいない6年間を耐えることができなかった…。ムッターが今こうして幸せでいられるのも…ミーチャのおかげなんだよ。ありがとう、ミーチャ。ミーチャはムッターの…一番の同志だよ。
母親の柔らかい身体に包まれたミーチャが、その優しい匂いを体いっぱいに吸い込む。
― ムッターの一番の同志…。
母親の腕に抱きしめられながらミーチャは何度もその言葉を心の中で反芻した。
「あ、お湯が沸いた!ミーチャ、風邪を引いちゃう!!下着を脱いでお尻を拭こう」
ユリウスがカタカタと音を立てるやかんの蓋の音に気付いて、ミーチャを促した。
「うん!!」
元気良く返事をしたミーチャの顔は、もうさっきの泣きべそ顔はどこへやら…、父親にそっくりな心を蕩かすような笑顔を浮かべていた。
作品名:50 小さな同志 作家名:orangelatte