永遠にともに〈グリプス編〉3
「気分はどうだ?」
アムロは心配気に自分を見つめるシャアの顔を見上げる。
「ん…大丈夫。心配掛けてすみません。」
「いや、私こそすまなかった。」
もう一度アムロの髪をクシャリ撫でる。
「ううん。オレを心配してくれたんですよね?」
「ああ…、今後は君にも出撃してもらわねばならん。しかし、君のあの頭痛が心配でな、何か手を打たねばと思って色々調べている。」
「そうですね…。戦闘中にあの頭痛がくると厄介です。」
アムロは自身の頭に手を当てる。
「頭の中のあのチップが何らかの電波を受けて頭痛を誘発している可能性がある、その対策として零式のコックピットに電波を遮断する処置を施した。」
「ああ。あの基盤と内装の壁はその為…」
整備をしながら何らかの処置が施してあるのには気付いていたが、まさかその為とは思っていなかった。
「完全にシャットアウトとはいかないかもしれないが効果はあると思う。しかし、戦闘中でも何かあれば必ず私に知らせるんだ。いいな?」
アムロの頬に手を当てると真剣な瞳がアムロを見つめる。アムロはその綺麗なアイスブルーの瞳を見つめるとコクリと頷いた。
翌日、食事をしていると敵襲を告げるサイレンが鳴り響く。
『敵機接近!総員戦闘配置につけ!!』
アムロはシャアと共にモビルスーツデッキへと向かう。そこにアポリー中尉とロベルト中尉が合流する。
「お!とうとうアムロも出撃か?」
ロベルトがアムロの肩を叩く。
「ハイ。よろしくお願いします。」
「いやいや、俺たちの方こそよろしく!」
アポリーがロベルトの肩に腕を乗せながらアムロの肩を叩くとロベルトを連れて先にデッキへと向かって行った。
デッキに着くとエマ中尉が通りかかる。
「えっ!あなたパイロットだったんですか!?」
エマがパイロットスーツに身を包んだアムロを見つめて驚く。
「あっ。えっと、ハイ一応。」
メカニックでも無い人に整備を依頼してしまった事に申し訳なさと整備内容の不安がエマの心をよぎる。
と、そこにアストナージがフォローに入る。
「エマ中尉!彼はパイロットですけどメカニックの腕もピカイチですよ!安心して下さい。」
エマは自分の心が態度に現れてしまったと少し自分を恥じる。
「いえ、あ、はい」
アムロはエマに笑顔を向けると気にしないでと呟く。
「あ、そうだ。依頼内容にプラスしてスロットルを少し調整しました。女性にはあのスロットルは固すぎるのでちょっと緩くしてあります。あと全体的に少しずつ調整したのでもし気に入らないところがあれば言ってください。後で直します。」
「あ…」
エマが言葉を発する間も無く、アムロはそれだけ言うと手を振って零式のコックピットへと跳んでいってしまった。
そのエマの肩をクワトロが軽く叩く。
「気にするな。メカニックは彼の趣味だ。好きでやってる。乗ってみて気に入らなければ言ってくれ。私から彼には言っておく。」
「彼は一体…」
とエマが口を開くとアストナージから声が掛かる。
「エマ中尉!!MK–Ⅱ準備OKです!!」
「それではな、エマ中尉」
クワトロも軽く手を挙げ百式へと向かって行った。
《MK–Ⅱ、エマ・シーン出ます!!》
エマの乗るMK–Ⅱがカタパルトデッキから宇宙へと飛び立つ。
「え!!何これ!すごく手に馴染む!それに前より断然反応が良くなってる!」
その乗り心地の違いにエマが驚愕する。
「彼、本当にメカニックじゃないの!?」
《エマ中尉、如何ですか?》
アムロから通信が入る。
「凄いわ!完璧よ!」
《ありがとうございます。何かあれば言ってくださいね》
「ありがとう!多分大丈夫よ」
アムロの零式がMK–Ⅱの横から百式に向かって加速して行く。
《アムロ!!先頭に出ろ!お前が先鋒で戦うんだ!》
アーガマのブリッジからブライトの指示が飛ぶ。
《了解!ブライトさん》
アムロはスロットルを全開にし先頭に立つ。
「アムロ!?」
ブライトが言った“アムロ”という名にエマが驚く。
その間にアムロが射程距離の倍以上の位置から敵目掛けてビームライフルを放つ。すると遠くで閃光が上がる。
「命中!?」
エマの驚きの声と共に「ヒュー」っとロベルトの口笛が聞こえる。
「相変わらずアムロはスゲーな。俺たち今日出番あるのか?」
冗談をいうロベルトにクワトロから笑いが漏れる。
「バカを言うな。ほら、来たぞ!アポリー中尉とロベルト中尉は右舷を!エマ中尉と私は左舷!カミーユは零式の後ろに付け!零式が蹴散らしたのを仕留めろ!」
アムロは敵の編隊の真ん中に切り込むと次々と敵機を撃破していく。
カミーユは必死に零式の後ろに付く。しかし、そのあまりにも早い動きについて行くのに必死だった。
「速い!!」
カミーユはとにかくクワトロの指示通りアムロが蹴散らし動揺して動きの鈍くなった敵を仕留めていくのが精一杯だった。
アムロは旋回し戦場全体の戦況を把握する。
《エマ中尉!右後方敵です。》
アムロの声にエマは振り向くと後方の敵を撃破する。
《カミーユ!君はあまり全体を見すぎるな!自分の周りに集中して!後ろにも目をつけるんだ!》
アムロの声に戦場に意識を引き込まれそうになっていたカミーユが顔を上げる。そして後ろから殺気を感じると振り向きざまに背後の敵を撃破する。
《その調子だ!流石だね》
《アポリー中尉!ラーディッシュに敵機が2機向かいました!迎撃をお願いします!オレはカミーユとアーガマに向かった3機を追います!》
《了解した!ロベルトお前も来い!》
アポリーがラーディッシュに向かう敵機に向かいスラスターを吹かす。
アムロから次々と指示が飛ぶ中、エマは敵をサーベルで切り裂く零式を見つめる。
「彼は自身も戦闘をしつつ皆の状況を把握しているの!?」
エマは "アムロ" と言う名にある人物を思い浮かべる。
『アムロ・レイ? 1年戦争の英雄。ファーストニュータイプ、アムロ…・レイ!?』
《どうした?エマ中尉。止まっているぞ》
共に左舷の敵を相手にしていたクワトロから通信が入る。
「クワトロ大尉…。彼は…零式のパイロットはもしかして…」
エマの問いにクワトロが笑う。
《ああ、アムロ・レイだ。》
クワトロの答えにエマが「やっぱり!」と呟く。
《エマ中尉、詳しいことは後だ!今は戦闘に集中しろ!》
クワトロの激に顔をあげると意識を戦闘に集中し敵に向かって行った。
アムロはアーガマに向かう敵に標準を合わせライフルを放つ。1機を撃墜するとビームサーベルを抜き、もう一機へと向かう。
《カミーユ!君は左のもう一機を!》
そう言うとカミーユの動きがおかしい事に気付く。
「カミーユ?」
その敵のパイロットはカミーユの両親を手に掛けたジェリド・メサだった。
《MK–Ⅱ!カミーユか!!今日こそ貴様を殺してやる!!》
敵機ハイザックのパイロットがカミーユに叫ぶ。
《お前!ジェリドか!!貴様が親父とお袋を!!!》
激昂したカミーユがジェリドの乗るマラサイへとビームサーベルで斬りかかる。
「カミーユ!落ち着け!!」
カミーユの元に行こうとするのを目の前の敵が阻止する。
《お前の相手は私だ!!》
マラサイのパイロットシェリー・ペイジ少佐が叫ぶ。
「女性!?」
しかし、そのマラサイの攻撃にアムロの目が変わる。
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉3 作家名:koyuho