55 取引
「あら、珍しい事。リューバ・ウェイ。貴女が宮廷に上がるなんて。どういう風の吹きまわし?」
ニコライ二世妃、アレクサンドラ・フョードロヴナが、宮廷に伺候したリューバに声をかけた。
「皇后さまにはご機嫌麗しゅう…。長の無沙汰を失礼いたしました」
声を掛けられたリューバが恭しく膝をついて、アレクサンドラ妃に挨拶をする。
「堅苦しい挨拶は良い。近う…」
アレクサンドラが手にした扇子でリューバを手招きする。
「ありがたきお言葉…」
リューバが無駄のない、しかし優雅な仕草でアレクサンドラ妃の元へ歩み寄る。
「私のサロンへ参りましょう。アンナ、サロンへお茶を運ばせなさい」
アレクサンドラはリューバの背中に手をやると、謁見の間を後にした。
作品名:55 取引 作家名:orangelatte