55 取引
「リューバ!待っていたのよ。あぁ、嬉しいわ。ヴェーラ・ユスーポヴァがあなたを供につけて宮廷に上がったときからずっと…ずっとあなたと仲良くなりたいと思っていたのよ。このバカンスはずっと私と一緒にいて頂戴ね。あぁ…どうしましょう。まずは…スタンダード号へ案内するわ。あなた、ヨットは乗った事あって?海はとても素敵よ…」
この家族と側近しかいない別荘でのアレクサンドラは宮廷で見る陰気な様子とはうって変わって、まるで娘のようなはしゃぎようである。
「皇后さまのお望みのままに…。リューバはどこへもお付き合いいたしますゆえ…」
― 私めの我儘をお聞き入れ頂いた御恩に報い奉らんと、このリューバ・ウェイこうしてお傍に参上仕りました次第でございます。
リューバは婉曲にそして慇懃に、このたびのクリミアでのバカンスに付き合う事への交換条件をアレクサンドラに確認させる。
「あぁ、もちろん分かっておりますよ。アナスタシアは―、私にとっても愛すべき親戚です。きっとこのたびの事も…純粋なあの娘が何かの陰謀に巻き込まれたに違いありません。…一度下された刑を取り消すことは私にも出来ませぬが…、くれぐれも彼女を厚遇するよう取り計らいますよ。そしてほとぼりが冷めたら、必ずや恩赦を与える事を約束します」
―さ、こんな話はもうおしまいにして…、ヨットハーバーまで馬を出して頂戴。私を乗っけて行って。
そう言ってアレクサンドラはリューバの腕に自分の腕を絡めた。
作品名:55 取引 作家名:orangelatte