永遠にともに〈グリプス編〉4
こちらに寄せられる視線はシャアにだけでなく、隣を歩くアムロにも向けられていた。それも女性ばかりでは無く、男性の視線も向けられている事にこの白い悪魔は気付いていない。
大きな琥珀色の瞳に柔らかな癖のある髪。惜しげも無く見せるその笑顔は万人を魅了する。
そんなアムロの細い腰を掴むと、隣に引き寄せ耳元で囁く。
「そんなに拗ねなくても私は君だけのものだ」
その言葉にアムロは顔を真っ赤に染めて口をパクパクしている。
その二人のやり取りに、周りの視線が更に集まった。
そして、その後ろを歩くアポリーとロベルト、カラバのメンバーのベルトーチカ・イルマは大きく溜め息を吐く。
「あの二人、俺たちの存在を完全に忘れてるな…」
「そうね…。何なのあのイチャイチャぶりは、それにアムロってば可愛すぎ!!」
「クワトロ大尉…なんでそこでアムロの腰を抱くんですか…。」
3人は前を歩くリア充に口々にツッコミを入れる。
すると、不意にアムロの足が止まる。
アムロの視線の先を見ると、母親と二人の子供がオープンカフェの席で仲良くお茶をしていた。
「ミライさん!!」
アムロはその親子連れの元へと走り出す。
駆け寄るアムロに気付いた母親が立ち上がり、口元に手を当てて驚き、アムロの名を呼んだ。
「アムロ!?」
そこにいたのは元ホワイトベースのクルーで、ブライト・ノアの妻、ミライ・ノアとその子供達だった。
「ミライさん!よく無事で!!」
先日のジャブロー基地攻略作戦時、ジャブロー基地の連邦軍宿舎に住んでいたミライたちを心配したブライトが、シャアに安否確認を依頼していた。
その確認の為、教えられた宿舎に行ってみたが、既にミライ達は姿を消した後だった。
「アムロこそ!生きている事はなんとなく分かっていたけれど…、よく無事で!」
ミライはアムロの頬を両手で包み、瞳に涙を浮かべる。
そして、ミライはアムロの横に立つシャアに目を向けると一瞬、驚いた顔をするが直ぐに笑顔を浮かべ、シャアに挨拶をする。
「はじめまして…かしら?ミライ・ノアです。」
その意味ありげな言葉にシャアが不敵な笑みを浮かべる。
「クワトロ・バジーナです。失礼ですが貴女はもしやブライト・ノア大佐の奥方でしょうか?」
「ええ、そうですわ。」
ミライはシャアに向かいニッコリと微笑む。
『ミライ・ヤシマ。確かヤシマ財閥のご令嬢で元ホワイトベースの操舵手。』
シャアはミライの経歴を思い出す。
「でも、ミライさん、どうしてここに?」
アムロとシャアはミライのテーブルに一緒に座ると、アポリー達には先にルオ商会に行ってもらう事にした。
「4ヶ月くらい前かしら、なんだかイヤな予感がしたの。それで子供達を連れて連邦の宿舎を出て色々なところを転々としていたの。」
『4ヶ月前…ブライトがエゥーゴに参加した頃だ。ブライトとは連絡が取れなかった筈だが…確か、ブライトは「妻はニュータイプの様なものだ」と、言っていたな。』
「相変わらずミライさんは感が鋭いですね。」
アムロが頬づえをついて微笑む。
「ふふ。それで…アムロはどうして赤い彗星と一緒に?」
ミライの問いに、アムロとシャアが固まる。
そして、シャアが「ふぅ」っと小さく深呼吸をする。
「どうやら貴女には隠し事はできない様だ。戦時中、ホワイトベースを落とせなかったのは、アムロの存在とブライトの指揮だけでなく、貴女の存在も大きかったのでしょうね。」
シャアはスクリーングラスを外すと、ミライに微笑む。
「そんな事は…。私のは只の感ですから。」
実際に、1年戦争時はミライの感で危機を回避した事が幾度となくあった。
ブライトもよく、ミライに確認をとり、その上で命令を出していた。
二人からアムロの事情を聞いたミライが「まぁっ」と感嘆の声を漏らす。
「そうだったのね。でも、結果的にアムロにとっては良かったようね。」
と、アムロとシャアを見つめて微笑む。
『どうやらノア夫人には二人の関係までも全てお見通しのようだな。』
シャアはミライに微笑み返す。
すると、ミライの隣に座っていたチェーミンが「クシュン」っとくしゃみをする。
ミライは「あらあら」とハンカチを取り出し、チェーミンの鼻を拭いてあげる。その微笑ましい光景を見てアムロが目を細める。
「母親なんだね。ミライさん」
「ふふ、7年も経てば良くも悪くも人は変わるわ。アムロも今、とても良い顔をしているわよ。きっと大切な人が出来たからね。」
その言葉にアムロは顔を赤く染める。
「ミ、ミライさん!」
「ふふ。そういう可愛いところは昔と変わらないわ」
「ミライさん!!」
シャアはその様子に微笑むと、アムロの肩を叩く。
「アムロ、そろそろ時間だ。」
「ああ。あ、ミライさん。どこの宿に?」
「港に停泊しているコーラル・オリエンタル号よ」
「あの大きな客船?」
「ええ、コロニー行きのシャトルのチケットが中々取れないの。だからあそこで泊まりながらチケット待ちなのよ。」
「そうですか…、それじゃまた時間があれば顔を出します。」
「ええ、それじゃあ」
と、アムロが席を立った瞬間、地響きと共に爆音が鳴り響く。
「キャア!!」
「何だ!?」
テーブルに掴まりながら周囲を見渡す。
するとビルの隙間からビームの閃光が見える。
「こんな街中で攻撃!?」
「アムロ!!一旦アウドムラに戻るぞ!」
「わかった!ミライさん!ここに居たら危険だ!オレ達と一緒に避難を!」
「ええ!」
アムロはチェーミンを腕に抱き、ハサウェイの手を引くミライを連れてシャアと共にアウドムラに向かって走る。
走りながら、アムロは頭の中に誰かが自分を呼ぶ声が響くのを感じる。
『何だ…。誰かがオレを呼んでる…。とても…嫌な声…!』
アムロは眉間に皺を寄せ、頭を振りその声を振り払う。
しばらく走るとビルの隙間に大きな黒い物体が見えた。
「何だ!あのデカイのは…!モビルアーマーか!?」
その姿にアムロの心臓がドクリと大きく波打つ。
「うっ!」
Tシャツの胸元を握りしめ、アムロが唸る。
「どうした!?アムロ!」
シャアが振り向き、アムロに駆け寄る。
「大丈夫だ…すまないがチェーミンを頼む。」
額に大粒の汗を浮かべながら、シャアにチェーミンを任せると、フラフラとしながらも走り始める。
「アムロ…」
シャアは顔に不安を浮かべつつも、今は避難が先だと、足を動かす。
頭上を見ると、ドダイに乗ったMK–Ⅱが黒いモビルアーマーへと向かって飛んで行くのが見えた。
「MK–Ⅱ、カミーユか!」
街の異変に気付いたハヤトがMK–Ⅱとジムを2機発進させたようだ。
「今の内だ!急ぐぞ!」
シャアはアムロの腕を掴み、走り出した。
ミライはアムロと黒いモビルアーマーを見つめて眉間に皺を寄せる。
『嫌な予感がする…。あの黒いものにアムロを近付けてはいけないわ』
どうにかアウドムラに辿り着くと、アポリー達とステファニー・ルオと思われる女性がブリッジから戦いを見ていた。
「ハヤト艦長!どういう事だ!?」
駆け寄るシャアにハヤトが答える。
「わかりません。ティターンズのモビルアーマーだと思われますが、突然現れて街を攻撃し始めたんです。」
アムロがフラつきながらブリッジの窓に近付き呟く。
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉4 作家名:koyuho