永遠にともに〈グリプス編〉4
「オレ達を誘き出してるのさ。」
「ちっ、ハヤト艦長!百式も出る!」
駆け出そうとするシャアをアムロが止める。
「クワトロ大尉、大丈夫だ。もう終わった。」
「アムロ?」
街を見ると、黒いモビルアーマーが撤退して行くのが見える。
「どういう事だ?MK–Ⅱは?」
「大丈夫。MK–Ⅱは無事だよ。」
アムロは壁にもたれながらズルりとその場に座り込む。
「アムロ!?」
シャアが慌ててアムロの身体を支えると、そのまま意識を失った。
大粒の汗を額に浮かべ、グッタリと身体をシャアに預けるアムロにミライが歩み寄る。
そして、そっとその頬に手を添える。
「あの黒いモビルアーマーにアムロを近付けてはダメ。あれはアムロを闇に引き込んでしまう。とても嫌な予感がするの。」
ミライの言葉にシャアはアムロの身体を支える腕にグッと力を込めた。
『アムロ!』
翌日、ミライ達をコーラル・オリエンタル号に送る為、アムロとベルトーチカはエレカを港へと走らせていた。
「ミライさん、本当にアウドムラには乗らないんですか?シャトルのチケットだって戦況が悪化したら益々取れなくなりますよ…。」
「ええ。でも子供達を戦争に巻き込む訳にはいかないわ。」
子供達を抱きしめるミライに、昔、自分の意思とは関係なく戦争に巻き込まれていった自分たちの姿が脳裏をよぎる。
「…そうですね…そうかもしれない。」
「アムロの気持ちは嬉しいわ。ありがとう。」
「いえ。」
アムロは小さく微笑むと、エレカを港に向かって走らせた。
その頃、シャアはアウドムラでカミーユに昨日のモビルアーマーの事を確認していた。
「カミーユ、昨日のあれは何だったんだ?」
カミーユはベンチに座り膝の上で手を組む。
「わかりません。でも、凄く辛そうなプレッシャーを感じました。何だか苦しんでいるような…。」
「パイロットはニュータイプなのか?」
「わかりません。でも、向こうの感情が凄く伝わってきて…。最後、オレにトドメをさせたかもしれないのに、何か苦しんでる思惟が伝わってきたと思ったら撤退して行ったんです。何だか凄く不安定な感じがしました。」
カミーユの言葉にシャアは顎に手をあて考え込む。
『不安定なニュータイプ…、強化人間か?情報が確かならば連邦の強化人間のベースとなったのはアムロだ。その強化人間の思惟がアムロに悪影響を与えたか…。』
考え込むクワトロをカミーユが覗き込む。
「クワトロ大尉?」
「何だ?」
「あの…、気の所為かもしれませんが、あのパイロットから微かにアムロさんの気配を感じたんです…。何だったんでしょう?」
シャアは顔をあげ、大きく溜め息を吐く。
「やはりな…」
「クワトロ大尉?」
「おそらく、昨日のパイロットは連邦の強化人間だ。過去にニュータイプ研究の被験体となったアムロのデータをベースとした…な。」
「強化人間…?」
「ああ、薬物投与で人工的に作られたニュータイプだ。」
「人工的に!?そんな事が可能なんですか!?」
驚いて叫ぶカミーユにシャアは頷く。
「しかし、カミーユの報告を聞く限り、まだ完全ではないようだな。それにあのモビルアーマーも気になる。おそらくサイコミュを搭載したニュータイプ専用機だろう」
「ニュータイプ専用機…」
カミーユは黒い巨体を思い出し身体を震わせた。
そんな二人の元に、ハヤトとステファニー・ルオが姿を見せる。
「カミーユ、すまないがステファニーさんをルオ商会まで送ってくれないか?」
「はい。わかりました。」
カミーユはクワトロに軽く会釈をすると、ハヤトとステファニーの元へと駆けて行った。
「君もパイロットなの?」
エレカの助手席に乗るステファニーがカミーユに問う。
「はい。ガンダムMK–Ⅱに乗っています。」
「ああ、昨日の!君だったのね。そういえば昨日、ブリッジで倒れた彼もそうなのかしら?赤茶色の癖のある髪の…。」
「赤茶色の髪なら…多分アムロさんですね。はい。彼はあのアムロ・レイですよ!」
「彼が!?」
「意外ですか?」
ステファニーの反応にカミーユがクスリと笑う。
「ええ、何だかあまり軍人っぽく無かったから…。」
「ああ…、そうですね。正直、僕も初めて会った時はそう思いました。それに、凄いパイロットなのに全然偉ぶらないし、いい人ですよ。」
「そうね。あ、もう此処で良いわ。ありがとう。」
カミーユはステファニーを降ろすと、近くの公園横にエレカを停めて昨日の戦闘で破壊されたビルを見つめる。
「強化人間…か」
ボウっとするカミーユのエレカをノックする音がする。
カミーユが音のする方を見ると、青いショートカットの髪の少女が中を覗き込んでいた。
「ねぇ、旧市街の方まで乗っけてくれない?」
「良いよ!」
カミーユはその少女に一目で惹かれた。
そう、それはまるでアムロとララァの出逢いのように…。
二人は旧市街までドライブし、初めて会うとは思えないほど楽しい時間を過ごした。
「また会えるかな?」
カミーユの問いにフォウという少女がニッコリと笑う。
「うん。また会いたいな。」
別れ際、触れるだけのキスを交わすと、フォウは街の中に消えて行った。
「フォウ…・ムラサメ。彼女は一体…。」
キスの感触の残る唇の手を当て、カミーユは呟く。
事態が動いたのはその少し後だった。
アムロがミライ達をコーラル・オリエンタル号へと送り届け、帰路についていたエレカのカーラジオからとんでもない放送が流れる。
《エゥーゴのメンバーに告ぐ。私はティターンズ、スードリー艦長代理ベン・ウッダー大尉だ。24時間以内にアウドムラを当方に引き渡さない場合はニューホンコンに攻撃を仕掛ける。また、もしこちらに攻撃を仕掛けるならば人質の命は無いと思え。人質は元ホワイトベースの艦長、ブライト・ノアの婦人、ミライ・ノアとその子供達だ。》
「何だって!!」
アムロはエレカを路肩に止めると、エレカから降りて港ヘと走り出す。
「アムロ!どうするの?!」
ベルトーチカが叫ぶのにアムロが答える。
「ミライさん達を助ける!君は急いでアウドムラに戻ってハヤトに伝えてくれ!!」
「アムロ!!!」
同じくこの放送を聞いていたカミーユがアウドムラへ急ぐ。
そして、フォウもスードリーへと向かった。
「ベン・ウッダーめ!私はこういうやり方は嫌いだ!サイコガンダムでMK–Ⅱを倒せば良いんだろ!」
アムロがミライ達が囚われている船ヘと行く。
「そちらの責任者と話がしたい!!」
「私が責任者のベン・ウッダーだ。」
「人質の交換をして欲しい!!私は地球連邦軍アムロ・レイ大尉だ!人質としては申し分無いはずだ。あなた達も女子供を人質にとる卑怯者とは言われたく無いだろう!」
ベン・ウッダーが部下に確認する。
「本当にあのアムロ・レイか?」
「はい。あの顔には見覚えがあります。」
「わかった。アムロ・レイ大尉。人質交換に応じよう。」
アムロと引き換えにミライ達が解放される。
「アムロ!!」
アムロは駆け寄るミライを抱きしめる。
「オレが声を掛けたばっかりに迷惑を掛けてすみません。」
「そんな事!!」
「ミライさん。会えて良かった。さぁ、早く」
ミライ達をアムロが乗ってきたボートに乗せ脱出させる。
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉4 作家名:koyuho