永遠にともに〈グリプス編〉4
アムロは後ろ手に拘束され、銃を突きつけられる。
「嘗ての英雄とご一緒できて光栄ですよ。アムロ・レイ大尉。」
ベン・ウッダーの言葉にアムロは不機嫌な顔を浮かべる。
『英雄ね…。散々もてはやした挙句に、研究材料としてモルモットにされてたなんて、どれだけの人間が知っているだろう…』
すると、船室から強化人間、フォウ・ムラサメのインストラクター、ナミカー・コーネルが姿を現わす。
「ベン・ウッダー大尉、フォウは戻って来ましたか?サイコガンダムはフォウでなければ動かせないのですよ!」
「ああ、さっきスードリーに着いたと連絡があった。今、サイコガンダムでこちらに向かっている。」
「サイコガンダム!?昨日のモビルアーマーか?」
アムロがベン・ウッダーの言葉に驚きの声を上げる。
そのアムロの声にナミカー・コーネルがアムロを見つめる。
「あなた…、ナンバー001!?」
その呼び名に、アムロがビクリと肩を震わせ、恐る恐る声の主を見る。
「っ!あなたは…!」
アムロの声が震える。
かつて、オーガスタ研究所でムラサメ博士の助手をしていた研究者、ナミカー・コーネルの姿がそこにあった。
「やはり、ナンバー001!生きていたのね!!大変だわ!ムラサメ博士に連絡しなくてわ!!」
その言葉に思わず声を荒げる。
「やめろ!!」
暴れるアムロを兵士が殴りつける。
「うっ!」
「ベン・ウッダー大尉!日本のムラサメ研に至急通信を繋いで下さい」
「わかりました。こちらへ」
アムロは船室へと向かう二人を必死で止めようとするが、数人に拘束されて身動きが取れない。
「やめろー!!」
そのアムロの叫びがアウドムラにいるシャアの脳裏に届く。
「アムロ!?」
「どうしました?クワトロ大尉。」
隣のハヤトが振り向く。
「いや、今…アムロの声が聞こえた。危険な状態かもしれない。ハヤト艦長、私も百式で出る。」
「わかりました」
シャアは嫌な予感に胸が締め付けられる。
『アムロ!何があった!?』
百式のコックピットに座り起動操作をする。
するとハヤトから通信が入った。
《クワトロ大尉、アムロの奴ミライさん達と引き換えに人質になったそうです。》
「なに!?」
《我々は降伏したと見せかけて投降し、アムロの救出に向かいます。ミライさん達が人質だった時に比べれば格段に成功率は上がってます。大丈夫ですよ。海中に敵機が潜んでいると思われます。カミーユと大尉は海中の敵機をお願いします。》
「了解した」
ハヤトの言うことは間違っていない。それはわかっている。しかし、どうしようもなく不安が押し寄せる。
『アムロ!!君を何があっても救出する!無事でいてくれ!』
シャアは操縦桿をグッと握ると百式を発進させる。
「クワトロ・バジーナ、百式出る!!」
ベン・ウッダー達の船にアウドムラが白旗を掲げて近寄る。
「賢明な判断だな。」
ベン・ウッダーがアムロを見つめ皮肉な笑いを浮かべる。
アムロはベン・ウッダーを睨み付けると、海の中に意識を向ける。
海中にモビルスーツが潜んでいる…。
5機か…。MK–Ⅱと百式もいるな。
アムロは脱出のタイミングを伺う。
『このまま捕まればムラサメ研に連れて行かれる!何としてでも逃げなければ!』
すると、海中から爆音が響く。
『始まった!!』
アムロは兵士達が動揺した瞬間を見計らい、隠し持っていたナイフで手を拘束しているロープを切る。
海中ではカミーユのMK–Ⅱとクワトロの百式が敵機を撃破する。
『5機全て片付いたな』
アムロが海へと飛び込もうとした瞬間、閃光がMK–Ⅱに向けて放たれ、ビームがMK–Ⅱの右腕を掠める。
「何だ!?」
空を見上げると、頭上に黒いモビルアーマー“サイコガンダム”が此方に向かって来ていた。
サイコガンダムを視認した瞬間、アムロをあの頭痛が襲う。
「くっ痛つううう!!」
頭を抱えてうずくまるアムロを兵士達が取り押さえる。
「アムロ!?」
アムロの異変を感知したシャアが百式を海上に浮上させアムロを探す。
モニターを拡大し、船上のアムロを見つける。
「アムロ!!今行く!」
シャアは船に向かい、スラスターを全開にする。
しかし、百式の行く手をサイコガンダムのメガ粒子砲が阻む。
《ちっ!カミーユ!アムロを救出する!援護しろ!》
《了解!》
カミーユがビームライフルをサイコガンダムの頭部に放つ。
「命中!やったか!?」
しかし、ビームはバリアで弾かれてしまう。
「何!? iフィールドを装備しているのか!?」
《カミーユ!ビームではダメだ!実体弾だ!グレネードを使え!》
《わかりました!大尉》
カミーユはクワトロの指示に従い、サイコガンダムに向かってグレネードランチャーを向ける。その瞬間、サイコガンダムから知った気配を感じる。
『誰だ!この感覚!』
《MK–Ⅱ!お前を倒して記憶を取り戻す!!》
サイコガンダムから女の声が…、さっき会ったフォウの声が聞こえる。
《フォウ!?黒いモビルアーマーのパイロットはフォウなのか!?》
するとサイコガンダムのフォウもカミーユの気配をMK–Ⅱから感じる。
《カミーユ?MK–Ⅱに乗ってるのはカミーユなの!?》
《そうだよ!フォウ!カミーユだ!攻撃をやめるんだ!》
カミーユの声に動揺したフォウの攻撃が止まる。そして、カミーユも攻撃の手を止めた。
《どうした!?カミーユ!》
《クワトロ大尉!あのモビルアーマーのパイロットは知り合いなんです!オレが説得します》
《カミーユ!?》
クワトロは動きを止めたサイコガンダムとMK–Ⅱに戸惑いつつも、このチャンスにアムロ奪還へと向かう。
船上ではアムロが激痛に頭を抱えてうずくまっていた。
「ナミカー!アムロ・レイはどうしたのだ!?」
ベン・ウッダーがアムロの異常な苦しみようにナミカーに尋ねる。
「おそらく、頭部に埋め込んだバイオセンサーのチップがサイコガンダムのサイコミュに反応して頭痛を引き起こしていると思われます。」
「バイオセンサー?何故そんな物がアムロ・レイの頭部に?」
「アムロ・レイはかつて検体ナンバー001としてオーガスタ研究所でニュータイプ研究の被験体となっていました。その際、サイコミュ研究の一環として頭部にバイオセンサーを埋め込んであります。」
ベン・ウッダーは踠き苦しむアムロに哀れみの目を向ける。
『連邦は1年戦争英雄を実験の被験体に!?』
「このままで大丈夫なのか?」
「いいえ、これ以上この状態が続けば精神に異常をきたす可能性があります。ナンバー001は大切な被験体です。無事にムラサメ博士の元まで届けなければ!」
「どうすれば良い?」
「サイコガンダムの稼働を停止するか、制御権をフォウからナンバー001に切り替えれば安定する筈です。」
「今、稼働を止める訳にはいかない!それに制御権をアムロ・レイに譲れば、エゥーゴにサイコガンダムを奪われる危険もある!」
ナミカーとベン・ウッダーが言い争いをしている所に百式が降り立つ。
「アムロ!」
兵士に囲まれ、うずくまるアムロをマニピュレーターでそっと掴む。
「シャ…ア」
苦しい呼吸の中でアムロが百式を見上げる。
マニュピレーターに掴まり、ホッとしたのも束の間、サイコガンダムが百式の動きに気付き、攻撃をする。
作品名:永遠にともに〈グリプス編〉4 作家名:koyuho