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同調率99%の少女(13) - 鎮守府Aの物語

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「ねぇ提督。シャワー室作りましょうよ!」
 川内はストレートに提督に目下最重要な願い事を言った。那珂と神通も視線で訴えている。そんな3人を見て提督はドヤ顔になって口を開いた。

「あぁ。実は五月雨たちからもお願いされていてな。今建築業者と最終的な設計を詰めてるところなんだ。」
「えっ!?そーなの?だったら早く言ってよ〜!」
 那珂は提督の側に駆け寄り肩を小突くと、川内達の方を見て言葉を続ける。
「川内ちゃん、神通ちゃん。うまくいけば訓練期間中にシャワー浴びて気持よく帰れるようになるよ!」
「ですね〜!」
「……ほっとします。」

 3人が勝手に盛り上がるのを見て提督は苦笑しながら3人に向かって伝える。
「まだ工事計画中の別館もあるし、西にある市との共同館や別館も効果的に使えるように設計しなければいけないんだ。意見をくれると助かるよ。」
「もしかしてさっき提督がPCに向かってやってたのって……」
 那珂が想像しながら尋ねると提督は答えを発した。
「そう。フロアのシミュレーションアプリで設計考えてたんだ。」

 提督の発言を聞いた川内はその場にいた誰よりもノリ気になって声高らかに提督に願い出る。
「ゲームみたいで楽しそー!それ見せて!」
「あぁいいよ。」
「やったぁ!」

 提督と川内が妙に仲良さそうにしているのを目の当たりにし、やや不満気になる那珂。日中に二人の接し方に対して感じた妙な感覚。那珂は複雑な心境になりはじめた。

 川内が自身で言っていたように、あまり深く考えずに物事をする傾向にあることを那珂はわかっていた。最近の言動や行動を見てもそうだと把握している。趣味が合うから男子生徒と一緒になって馬鹿騒ぎする。ただそれだけの行動原理。流留自身にはどの男子に対しても恋愛感情はないのかもと那珂は想像した。
 男勝りとも言える少女、川内こと内田流留。ハッキリ言って黙って立っていればうちの高校でトップクラスの美少女だろうと那珂は評価している。その評価は他の生徒もそうだろうとなんとなく察していた。だからこそ彼女の何気ない振る舞いを誤解して妬む女子が多かった。そしていじめ。
 今の自分はややもすると、妬んで流留をいじめていた女子の数歩手前まで来ているのではないか。たった数日しか提督に会っていないのに、下手をすれば4ヶ月近く艦娘として在籍して提督と接している自分よりも提督と親しげに接している。那珂の心の奥底で靄が発生し始めるのを感じた。それは世間一般的には妬みや嫉妬と呼ばれる感情だった。
 このまま進めば流留をいじめる(ていた)女子のようになりかねない。だが自分は彼女の考えを聞き、彼女のことを理解した上で最大の味方としてここにいる。事の次第をわかっているから一歩を踏みとどまることができる。そう自分に言い聞かせて彼女に対する負の念を押し消す。
 那珂は二人の会話に表向きはにこやかな笑顔を向けながら観察を続けた。

「ねぇ提督!そのアプリってどう?面白い?」
「いや……面白いかって言われると、あくまで仕事として使ってるからなぁ。まぁ、作ったり設計することが好きな人なら、プライベートでやるなら楽しく使えると思うよ。プラモやブロック遊びと似てるな。」
「そっか。なら見るだけじゃなくてやりたいなー。」
「やらせるのはちょっとな。そのまま業者に発注できちゃうから見るだけ。」
「はーい。じゃー仕事じゃない時にやらせて?」

 川内は提督の忠告に素直に返事をし、汗を流したいという欲求を忘れて満面の笑みを提督に向けて会話する川内。それを見ていた神通が静かにツッコんだ。
「川内……さん。シャワー浴びたかったのでは? あまりこの状態で……男性の側にいるのはどうかと。」
「ん〜〜?あぁ、そっか。すっかり忘れてた。シャワーも浴びたいけど、そのアプリも見たいなぁ。どうしますか、那珂さん?」

「えっ!?それをあたしに聞くぅ?」
 那珂は川内・提督観察を中断してすぐさま返事をした。
「いや、なんとなく。那珂さんの言うこと聞いておけばバッチリかなぁって。」

 ここまでのところ、川内の提督に対する接し方は男子生徒に対してと変わらない、素直な欲求によるものだ。なんら心配することはない。だから川内を妬むのは筋違いだ。せっかくの艦娘仲間であり大切な後輩なのだ。よくないことを考えるのはやめよう、那珂はそう捉え、思考を切り替えることにした。
 とりあえずは求められた意見への回答。あまり自分を盲信されても困るが、期待に答えないわけにはいかない。

「う〜〜ん。まぁ、夏休みはまだたくさんあるんだし、今日は二人ともスーパー銭湯行って帰りなさい。」
 小さい子がお姉さん風を吹かすような仕草をわざとらしく再現して二人に指示する那珂。 ここはさっさと帰すのが吉だろうと判断した。
「は〜い。わかりました。」
「……了解しました。」
 川内と神通の二人は那珂の指示に返事をして素直に従った。

「那珂さんはどうするんですか?」
「あたしはカリキュラム考えないといけないから残るよ。」
「えー、那珂さんもスーパー銭湯行きましょうよ〜。」那珂に一緒に行こうとねだる川内。
「あたしそんなに汗かいてないし、二人のためにやることやっとかないといけないんだもん。明日からの訓練、乞うご期待!」
「アハハ。それじゃ期待して今日は帰ります。ね、神通。」
「……はい。あの……あまり厳しく方向で、お願いできれば……。」
「何言ってんの!那珂さんに任せておけば大丈夫よ!」
 神通の不安げな言い方に川内は同期の背中を軽くパシンと叩いて突っ込んでフォローをした。

「そーそー。だから行った行った!」
 那珂は執務室へ向かう道を逆走させるかのように川内と神通を手で払って急かした。とはいえ二人の荷物の一部は執務室にあるため一旦全員で執務室に入り、二人は持ち帰る予定の教科書を手に取り挨拶をして執務室から出て行った。

 出る前に日給のことを思い出した神通は川内の口を通して提督に尋ねてみた。すると提督は、早速とばかりに金庫から二人分のお金を取り出し封筒に入れ、手渡しした。川内と神通はそれを受け取ると、人生初の給料に沸き立つ。廊下に出た二人は軽快な足取りになって更衣室へと向かっていった。二人の手には8000円が入った封筒が壊れやすく大切なモノを扱うかのようにそうっと指と指の間に挟み込まれていた。